作品の閲覧

「800字文学館」

落ちこぼれ

濱田 優

 傘寿になった今も、エアロビクスに週3回通っている。
 加齢とともにミドルクラスのレッスンに付いて行くのが、辛くなってきた。けれど、長年の経験で難しいステップは適当に省く策に通じていたので、どうにかそのクラスに留まっていた。
 しかし最近、レッスンの疲れがなかなか抜けなくなった。無理をして体をこわしては元も子もない。
 そこで自らランクを下げることにした。そこは基本ステップが主体で、時間もやや短く、物足りない。ベテラン先生に不満を伝えると
 「本人の心掛けしだいよ。易しいステップでも大きく動けば運動量は増えて、健康維持には充分。それにもっと姿勢を正さないと。見栄えがしないばかりか、足腰を痛めるから。ことにあなたは猫背だから意識して」
 先生の注意に従ってレッスンを続けると確かに効果は上がるようだ。ただ毎回気合を入れて取り組まないとお座なりになってしまう。

 ところで、久しぶりに初級のクラスに戻ると、昔とはだいぶ様相が変わっていた。週日の昼間は変わらず中年の主婦が多いけれど、男女を問わずシニア層も増えてきた。以前は見掛けなかったお爺さんたちも数人いて、エアロビクスをそれぞれに楽しんでいる。
 その中に商店街の金物屋だった同年輩の人いた。今は息子に店を譲って自適の暮らしという。彼の紹介でわが町会の文化部長をしている先輩と知り合った。早速秋のバス旅行に誘われる。カラオケ付の飲み会も時々やっているそうだ。
 こうした先輩、同輩のエアロビクスはマイペースで、運動効果的のアップとか、見栄えを良くするとかという上昇志向は全くない。適当に体を動かして、仲間と楽しいお酒を飲み続けるのが目的のようだ。

 先生の教えを守って“先生のお気に入り”を目指すべきか、不良老人たちの仲間に入って楽しむべきか。
 小学校時代、厳しい女の先生に「友達を選びなさい。不良の子の誘いに乗っては駄目」と諭されたことを思い出す。あのときは先生に逆らって悪さをし、酷く叱られたが。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧