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「800字文学館」

直面する「リスク」

野瀬 隆平

 銃をかつぎ迷彩服に身を包んだ兵士の大軍団が力強く行進する映像。
 北朝鮮が核やミサイルの発射実験をしたという報道のたびに、テレビで繰り返し放映されるシーンだ。日本に危険が迫っていることを、目に見える形で強く印象づける。日本政府は、「厳重に抗議する。粘り強く対話と圧力をもって対処する」というコメントを繰り返すだけである。それで危険が簡単に回避できるとも思えない。
 我々と異なる価値観を持ち、何をしでかすか分からない国が、核やミサイルを持つことに危険を感じるのは確かである。しかし、既に保有している大国はよいが他の国が持つのは駄目だ、という論理に果たして皆が納得できる合理性があるのか。
 北の指導者一人を亡き者にしても、確実に平和がもたらされるという保証はない。今の体制が崩壊すれば、国が混迷状態に陥って多くの難民が日本に押し寄せてくる可能性も否定できない。核のリスクと同様に想定しておかなければならないリスクである。

 このように、国家の命運に係わる事態に直面しているのに、国会でやれ加計学園だ、防衛大臣の発言がどうだと、些細なことに時間を費やしている場合ではないと憤慨している人もいる。
 しかし、危険な事態に立ち至る具体的な「発火点」はどこにあるのか。日本が戦争に突き進んだ歴史を振り返りながら考えてみると、国の外だけでなく日本の内にも危険が潜んでいることが分かる。
 国会で論議されていることも、発端となる事実そのものは確かに些末なことかも知れないが、問題なのは対処の仕方である。政権の中枢をなす総理とそれを支える官邸や内閣府が、更には武力を持つ自衛隊が、都合の悪い事実を隠し偏った情報を国民に流しているのではないかとの疑念がぬぐいきれない。
 自らが戦争による悲惨な体験をした日本人が少なくなった。当時の軍部や政府のとった行動を顧みて、再び誤った方向に国が向かわないように警鐘を鳴らす役割を果たさなければならない。

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