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「800字文学館」

一泊二食付き五百円

斉藤 征雄

 「一泊二食付き五百円の体験宿泊」という案内が来た。会員制リゾート会社の広告宣伝キャンペーンである。全国にリゾート施設を有し、入会金に応じたポイントで、好きな時に好きな施設を利用するシステム。企業の福利厚生施設や個人の別荘として最適と謳っている。
 この種の体験宿泊は前から知っていたが、それにしても一泊二食五百円は驚きである。「入会を強要したり、後日電話勧誘することは一切ない」とも書いてある。
 物は試しと二人利用で申し込むことにした。手近な箱根を選ぶと、三日後「当選しました」の電話があった。

 安い宿泊費に合わせて全体を最安価で行くことにした。新宿から高速バスで箱根に向かう。昼食はコンビニおにぎり。夜の飲み物にスーパーでワインも仕入れた。名柄はおなじみのチリワイン、アルパカ。
 施設は、緑に包まれた三階建てリゾートホテル風。早速部屋へ案内される。百㎡を超える広さ。最大八人が泊まれるという。子供や孫と一緒に利用することを想定しているようだ。
 スタッフが部屋に来てDVDを映し購入条件などの説明があった。神妙に聞く。二、三の質問もして、一時間半ほどで終わった。特にしつこい感じはなく「ご検討いただきまして、明日のチェックアウトの時に結論をお聞かせください」と言って出ていった。
 あっけない感じもしたが、早々と温泉に浸る。夕食はケータリング方式の部屋食。アルパカを飲み干して再び温泉へ。

 翌朝「いかがでしたか」に
「快適な気分で過ごさせていただきました。ただ、申し訳ありませんが入会は決心できませんでした」と答えた。
「それはもちろん結構でございます。今後ともよろしくお願いいたします」との挨拶を背に、少し後ろめたさを感じながら施設を後にした。

 せっかくの箱根なので、杉並木街道、恩賜箱根公園、箱根神社(いずれも入場料が不要)を回り、桃源台まで芦ノ湖畔を散策した。幸運にも梅雨の晴れ間で薄日のさす一日。売店のソフトクリームが旨かった。

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