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「800字文学館」

アオムシ達

内藤 真理子

 北側の窓の鉄柵にジャスミンを絡ませている。毎年春になるとほんのり薄桃色の細長い花をつけ、甘い香りを振りまく。
 もう花の季節は終わってしまったが、先日、台所のドアを開けると、ふさふさに伸びたジャスミンの葉っぱの間に、今年もまたアオムシを見つけた。
 こんな時はいつも、割りばしでつまんで土に落とし、生殺しにならないように潔く靴の裏で踏んづけることにしている。
 だが、今回見つけたのは少し高い位置だった。早速台所の食器棚から割りばしを持ち出して、上を見ながらつまもうとするが、爪先立ちでは力が入らない。その上敵は必死に抵抗する。小さな葉っぱが密集している蔓にしがみついてなかなか剝がれない。じっくり見ると全体に四つ位の襞がある。モンシロチョウの幼虫だろうか。割りばしを持つ手にふっくらとした緑の胴体の柔らかな感触が伝わって来る。
 矢庭に水が飛んできた。よく見ると、目はどこにあるかわからなかったが、尖らせている口のようなものが見える。そこから青い水を吐いたと思われる。
 そうなると潰してしまうには生々しすぎる。家の中から脚立を持ち出して、アオムシのしがみついている蔓の上と下を鋏で切り、その端っこを持って、近くの玉川上水まで行き、土手に、蔓ごと投げ入れた。

 翌日、又勝手口から外に出ようとすると、たたきの上にフンが落ちている。
 上を見ると、大きなアオムシが、わざわざ見える位置に出て来たかのように、目立つところにいて、全身で「私も殺して」と言っているみたいに切なそうだ。
 〝これは夫婦の片割れに違いない!〟
 今度は最初から脚立を持ち出し、割りばしを使わずに、蔓の上下を切って端を持ち、玉川上水まで運んだ。
 この時期の玉川上水には、蛙も、蛇も、昆虫も、うようよいるはずだ。野鳥も飛んで来るに違いない。こんなに危険がいっぱいの、草ぼうぼうの土手だが、互いに呼び合い、会えるだろう。運がよければ、立派なモンシロチョウにもなるだろう。

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