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「800字文学館」

マグナ・カルタあれこれ

稲宮 健一

 大憲章は西洋史で習った。二十年も前になるが、ワシントンへ旅行した時、米国会議事堂を訪れた。入り口の正面に金文字で書かれたマグナ・カルタが我々の基本の法典として飾ってあるのを見て、学校で習った歴史の授業を薄っすらと思い出したのを覚えている。英国のジョン王の課税権を制限するため、王といえども法の支配を受けることを一二一五年に制定されたものだ。米国の独立宣言にも影響し、法支配の原点がここにあると主張している。当然ながら英国憲法の基本として取り入れられている。
 別の時にカナダのオタワの議事堂を訪れたことがある。ここにはマグナ・カルタのような精神的な展示はなかった。議事堂の壁画の上部にカナダの豊かな資源、農作物、畜産などが描かれていた。かつて、大英帝国の一部として、豊かな資源の寄与を誇っていると主張しているようだった。

 最近では二〇一五年に発布から八〇〇年の節目の年に、記念の地、ロンドン南西部のラニーミードでエリザベス女王、キャメロン元首相、米リンチ元司法長官出席のもと記念式典が行われ、大憲章の理念は不朽と謳った。

 これに関して、興味のあるエピソードがある。*田中直毅によると、丁度この年、習近平総書記が英国訪問をすることになったのを機会に、中国人民大学は英国王ジョンがどのような形で屈服し、法の支配が確立したかを学生に知ってもらおうと、原文のコピーを英国から入手して展示しようと企画した。英国政府は喜んでコピーを提供したが、共産党指導部はこの展示を禁じ、結局展示は英国大使館の中だけに留まった。どうも、中国が考える法の支配とは、政府の示した指示、これが法律で、これを守るということのようだ。南沙諸島に於ける国際裁判所の決定は紙屑と極言していることからも、中国的な思考が滲み出ている。

 共産主義も西欧文明が生んだ一つの思想体系だと思うが、中華文明圏に入ると、古くからの王朝支配の残滓がこびりつているようだ。

田中直毅著「中国大停滞」

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