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「800字文学館」

「確認バイアス」

野瀬 隆平

 「確認バイアス」という言葉がある。
 自分の考えが正しいかどうかを検証するとき、その考えが正しいことを示す材料ばかり探してしまい、反対の情報には目を向けない傾向がある。そんなことを意味する社会心理学の用語だ。
 こうしたバイアスのかかった考えに基づいて物事を評価するのであるから、自分では公正に判断していると思っていても、無意識のうちに偏ったものとなってしまう。
 たまたま目についた本の内容や、統計データが日頃考えている事と合致すると、心地よくそれを受け入れてしまう。一方、反対の情報には目をつぶり、結果として気が付かぬうちに視野の狭い人間になっている。

 テレビや新聞などのマスコミも、ニュースを偏りなく報道することは難しく、完全に公平・中立ということはあり得ない。あらゆる面から見た事実を正確に伝え、受け取る側の判断に任せるしかない。
 個人でも簡単に情報が発信できるようになった今日、マスコミよりもむしろチェック機能が働きにくいこちらの方が問題である。ツイッターやフェイスブックなどで、極端に偏った情報が意図的に流され、拡散する過程で更に捻じ曲げられて伝播してゆく。
 恐ろしいのは、ネットで何かを検索したりフェイスブックの「いいね!」を押すと、データ・ベースとして集積され、個人の好みや信条などを含むプロファイルが作られる。それを基にその人が好みそうな情報を選択的に流す。商品の販売戦略などに利用されているが、最近では選挙戦など政治の場でも使われるようになったという。正に民主主義の根幹にかかわる問題である。
「確認バイアス」がある上に、このような操作がなされるのであるから、極端な考えが世の中にはびこるのは、至極当然のことだといえる。

 あやふやな情報に惑わされない確固たる自分の考えを持つためには、「片寄った情報が自分には流されてくるのだ」ということを自覚し、異なる考え方、耳障りな意見もあえて聴く態度が肝要である。

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