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「800字文学館」

今こそ日本は自主独立の気概を

田原 敬

 田原総一朗氏の大著『日本の戦後』を最近読んだ。この書は2003年刊行、上下巻各380ページの大著だが、中でも2001年国連大学で開かれた国際シンポジューム『グローバリゼーション・フォーラム』でのロシアのゴルバチョフ元首相、米国のキッシンジャー元国務長官、中国の邱国洪駐日公使、日本の中曽根康弘元首相のやり取りが印象に残った。

 まずゴルバチョフ氏が、「日本が経済大国になれたのは憲法のおかげではないか」と述べた。すると中曽根氏は「その言葉は意見として聞く」と流し、厳しい目をキッシンジャーに向け決然と言った。
 「日本の憲法は、貴国が占領下、日本を解体するために一週間で作った原案を押しつけて出来上がったものだ。それを日本人が主体的に作り直し改正しようとするのは当たり前のことだ。」
 するとキッシンジャーとゴルバチョフと邱国洪は、「どこからも介入を受けずに主体的に作った憲法の筈だが」と反駁し、三国揃って日本が憲法第九条を変える事を危惧した。
 数日後、中曽根氏の政敵であった宮沢喜一元首相に意見を求めると、「キッシンジャーは、日本が十年以内に憲法を変えて核兵器を持つようになると恐れている」と語った。

 キッシンジャーは国務長官時代、「日本は何を考えているか理解しがたい国だ。米国は中国とは価値観が合う。」と語り、同盟国日本の頭越しに米中国交回復を電撃的に進めた。慌てた日本が遅れじと日中国交を結ぶと「勝手なことをするな!」とカンカンに怒った人物だ。
 今回のトランプ政権誕生後、新大統領が対中強硬姿勢の一方で、以前から尊敬している96歳のキッシンジャーを、すぐに中国に派遣し裏工作を進めさせたと言われる。
 米国も中国もロシアも最優先するのは自国の安全保障と繁栄である。安倍首相とトランプ大統領の関係は今のところ良好だが、利があれば直ぐ中国と結びつくのが米国の歴史だ。日本は日本人が自ら守る気概が今ほど必要なときはないと思う。

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