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「800字文学館」

猫柳は不死身

木村 敏美

 山小屋の畑に猫柳の木を植えたのは平成二十一年だった。娘一家が転勤で福岡から東京へ行くことになり、記念に孫達といっしょに植えた。二~三月頃、銀白色の花穂が出て、暖かくなると黄色っぽい色になって落ち、葉が出てくる。その生命力に驚かされたのはずっと後になってからだ。
 数年前花穂の美しい時、枝を切って山小屋のトイレに飾った。最初は花瓶に水を入れていたが、水が無くても変わらないのでそのままにしていた。ふと気がつけばかれこれ四年位の月日がたっている。色も変わらず、触ってみてもポロリと落ちることもない。これが最初の驚きだった。

 もう一つの驚きは、昨年剪定した後に新しい枝が出てきてからの事だ。二月の中頃、小さい薄赤い皮のついた蕾が出てきた時、枝を切って水の入った花器にいれ自宅の玄関に飾った。暫くすると皮を破って花穂が出てきた。穂の先に残った皮が帽子のようについている。一つ一つ穂先の皮をとっていくと、出てくる純白の毛の柔らかい美しさに息を呑んだ。
 又、細い枝先に二ミリ程の小さい蕾がびっしりついていたので、十センチ程切ってコップにいれていると芽が出てきた。しかも水に浸っている所から、二センチ位の白い根が出てきているではないか! 何と言う生命力だろう。
 ただ新しい枝は、水につけていると根が出て花穂が落ちてしまう。

 小さくて可愛らしい形、絹糸のように輝く銀白の色、赤ん坊の産毛のようで、触ると猫の毛のような感触には心癒される。ドライフラワーもいいが、元の色ではない。色の美しい時に切り、ただ飾るだけ。生け方は猫柳だけでも素朴でいいし、他の花と組み合わせると華やかで豪華にもなり、どんな生け方も様になる。自宅にも山小屋にも、あちこちに生けている。昔川辺などによくあり、春の訪れを知らせてくれた木。根が出た枝を植え、育て増やしたくなった。
 もしこの花穂が十年もったら、猫柳は不死身だと声をあげて言いたい。

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