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「800字文学館」

ホームレスのオッちゃん達

池田 隆

 新宿御苑の正門脇で昼間から何人かの男が布団にくるまっている。他の公園でも時々見掛ける光景だ。横を通るたびに複雑な気持ちとなる。何故もっとしっかり働かないのだろうか。
 その疑問は或る若い女性の話で氷解した。「米欧亜回覧の会」シンポジウムにおける川口加奈さんの講演「ホームレス状態を生み出さない日本へ」である。
 彼女は中高生時代に「豊かな日本になぜホームレスがいるのか」と疑問を抱き、大阪市あいりん地区(旧釜ヶ崎)の炊き出しに参加する。
 オッちゃん達は意外にも優しく謙虚であった。彼らを自業自得と思っていた心が揺らぐ。友人にも働きかけ、炊き出し用のお米集めに奔走する。
 その頃に偶々応募した中高生対象のボランティア・スピリット・アワードで優勝し、ボランティア親善大使に選ばれる。外国の若者と接し、「ホームレスのいない社会を作ろう」と決心を固めた。大学では労働経済学などを学ぶ傍ら、NPO”Homedoor”を立ち上げる。転落防止柵と暖かい家の扉を名称に込めた。
 彼女は言う。
「多くのオッちゃん達は日頃も怠けてはいない。換金できる空き缶集めに朝と夕は必死である。襲われる危険と寒さのために夜間は起きて、昼間に寝ている。それも人の目がある所でないと怖いのだ。
 また怠惰だからホームレスになった人は少ない。多くが様々な不幸や不運が重なり、職や家族のみならず住む場所までも失った人たちである。一旦、住所不定となると雇ってくれる所はない。部屋を借りたくても、真面な職に就けないので金がない。この負の連鎖を断ち切らなければ、再起は不可能である」
 彼女は古自転車の修理技術に長けた者が多いことに気づき、彼らの収入源として多拠点のレンタル自転車を始め、軌道にのせる。さらには住所不定が理由で再就職できない者に、就職までの住居の確保にも精を出す。
 講演の最後は年配者の多い聴衆に対し「知ったら知った者の責任が有ります」と締めくくる。耳が痛い。僅かなカンパだが、それで責任を果たそう。

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