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「800字文学館」

早春の新宿御苑ぶらぶら歩き

藤原 道夫

 いつも通っている道端の白木蓮の蕾が膨らみ、先端が白くなってきた。と思う間もなく、日当たりのよい所の蕾が開いた。花に顔を近づけて早春の高貴な香りを嗅ぐ。近日中に新宿御苑に行こうという気分が高まる。
 新宿御苑には、毎年2月中旬から4月中旬まで度々出かけ、その時々に咲き競う花々を楽しんできた。5,6年通ううちに、何時何処でどんな花が咲くか凡そ覚えた。今は白木蓮の大木が白く覆われる時候だ。

 3月半ばのある日、新宿門から入場、予定した時間内にどう歩こうかイメージする。先ず入ってすぐ右手にある白木蓮の許に、予想通り見事に花が開いている。上の方から微かな香りが届く。振り向くとハチジョウキブシの長い花房が目に入る。
 温室の方に向かう。オカメザクラはもう終わり、ヒマラヤヒザクラが今年もラッパ状の小花を沢山咲かせている。近くに十月桜の小木、今は花がちらほら。広場を横切る途中で、八重左近桜が根元を踏み荒らされながら沢山の花芽を付けていることを確認し、ほっとする。
 今回の散策で何よりも楽しみにしていたのは、日本庭園にある白木蓮の大木。都内随一という樹に例年通り花がびっしりと付いている。開花が遅めで大部分は白い花の先端が尖ったまま。その風情もよい。樹の傍に佇み、また少し離れて眺め入る。この辺りには他にも三本あり、何処からともなく微かな香りが漂ってくる。
 その後ヤマザクラの並木に向かう。一本だけ早く咲く木がある。もう褐色の若葉が出ている。探してみると、上の方の一枝に白っぽい花が咲いていた。芝生の広場を横切って小彼岸桜の様子を見に行く。地面に近い所でちらほら小振りの花が開いている。少し離れた所でサンシュウの黄色い花が目立つ。

 西日の当たる緩やかな斜面の枯れた芝生に腰を下ろし、仰向けになって空を眺める。春めいて薄く霞がかかった空の色だ。思い切り手足を伸ばす。もうすぐ百科繚乱の候、見て回るのに体力がものをいう。今年も頑張ろう。

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