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「800字文学館」

カンネードライブ

安藤 晃二

「ニュートンさん、ちょっとどいて!英国のエンジンが物理法則に挑戦」イラスト付きのサンデータイムスの記事である。子供の頃から宇宙の永遠の距離感に感動して来た。16年前に英国の宇宙科学者ロジャー・ショーヤー氏によって発明された「推進燃料なしで宇宙機を推進させる装置」は、本流の科学者達からは、相手にされなかった。この間ドイツ、中国が、最近ではNASAがその実験に成功した。本物となると、アイザック・ニュートンがお墓の中グルグル回りする程の出来事らしい。この技術は、人類の生存期間中に近くの恒星への往復旅行を可能にし、一方、二百年間の物理の教科書が破り捨てられる。何とも面白そうな話である。

 ショーヤー氏の装置はEmDriveと呼ばれ、円錐状の装置に電磁波を送り込む。マイクロ波がどう転がりまわるのか謎であるが、箱の片側の溝の影響により装置に「推力」が生じる。これを実現する作動状態において、ニュートンの「運動の第三法則」、お馴染みの「作用反作用の法則」が働かないのだという。NASAの実験は真空中で、1.2 millinewtons per kWhの「推力」を実現したと、ジャーナルに発表した。電磁波を発生させるエネルギーは星の光からでも取得可能、EmDriveは永遠に作動する、一大革新技術になる。ホーキング博士が進める「light sails」計画はレーザー風にロボットを乗せて、太陽に次いで地球の至近にある恒星、4.37光年のAlpha Centauri星に11年かけて送り込む。EmDriveはlight sailsの180倍の効率で作動するという。

 NASAの研究者達は言う。「ニュートンもショーヤー氏も、何れも正しいことはあり得る。EmDriveは宇宙空間で何かに反作用しているのかも」、即ち、計り知れない量子力学の脇道が存在し得るのだ。九月にアメリカの化学者により人工衛星を使った大規模実験が行われ、決定的な実験結果が期待できる。そのEmDriveはCannae driveと呼ばれる。映画Star Trekの中の”ye cannae change the laws of physics”という台詞から名付けられたとか。Cannaeはイタリアのカンネーに因む。紀元前216年にハンニバルが無敵と言われたローマ軍を破った地である。

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