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「800字文学館」

女人禁制

安藤 晃二

 霞ケ関カンツリー倶楽部が揺れている。五輪会場という係わりから、IOCより、女子正会員受け入れへの改善要求を突き付けられる。思わぬボールが投げられた。

 二年程前、セントアンドリュース(The Royal and Ancient Golf Club)のセクシズム事情とその帰結が報道された。セントアンドリュース大学初の女性学長ルイーズ・リチャードソン氏は、アイルランド系米国人、ハーバードの「テロリズム」専門学者である。この1413年設立の由緒ある大学は、英国で第三位の学術レベルを誇る。歴代学長はRAGCのメンバーとなるが、2009年に赴任以来、リチャードソン氏は、メンバーシップの事には、恬淡としていた。セクシズムなど何とかなる、と考えていたのが甘かった。

 ある時、リチャードソン氏は気付いた。彼女の関心は性差別問題より、最も大事な仕事、10,000人を擁する大学経営の為に、世界的重鎮の寄付者まで含むRAGCのメンバーとの関係確立である。一方で、募金においてRAGCがガンともなる。男共は大学のメッセージを正しく理解しない。この最も強力なクラブ組織の女人禁制の法律を否定せずして、その57%が女子である学生達を鼓舞することが出来るわけがない。彼女は沈黙を破り行動に出る。「テロリスト対応」と同様手法、即ち、「相手を悪霊化せず、理解し、脅しを封じ込める」手を採用した。この北海沿岸の保守的な町で、クラブのタイをした人々と徹底的に関係を深め、RAGCはついに「No Dogs or Women Allowed」の看板を降ろす事になる。RAGCのCEO、ドーソン氏が男性クラブについて敢えて説明する。「何と言うか。ある種の人々が好む生き方かな。人種差別や、反ユダヤ主義とか関係なく、皆良くやる事なんだ」。歯切れが悪い。

 リチャードソン氏の当初の沈黙は、ゴルフに興味無し、と誤解されたが、RAGCから至近のKingarrock (百年続くヒッコリーゴルフ場)の募金イベントで見事なfirst shotを披露した。少女時代から父親に鍛えられ、「ゴルフは絆」と心得ている。「男性クラブ主義は絶滅寸前の時代錯誤」と彼女は切り捨てる。

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