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「800字文学館」

アメリカの「公平」とは

野瀬 隆平

「見たこともないような大きな船で、何十万台もの自動車がアメリカに運ばれてくる」
 日本の港から来た船のようだ。いや、日本からだけではない。中国からは大きな箱に大量の衣料品や雑貨が詰め込まれて運ばれてくる。またドイツからも。それに比べるとアメリカからは、あまり物が運び出されていない。
 そう思いながら「神様」は空のはるか彼方から眺めていた。更に目を凝らして見ると、物を送り出す国の人たちは身を粉にして働いているのに、受け取る方ではあまり働かずに生活を楽しんでいるようにも見える。まるでアメリカを畏れ敬って、世界中の国が「貢物」を献上しているようだ。これは不公平ではないか。

 アメリカの新しい大統領は、貿易の現状を「不公平だ」と相手国に対して怒りをあらわにしている。しかし、視点を変えると上のように考えることも出来るのでは。
 一部の労働者が仕事を失い困っているのは事実だが、「物を大量に輸出して来る国があるからだ」というのは、あまりにも短絡的だ。
 技術が進歩し産業構造が変化する中で、ある国が得意とする分野も当然変わってくる。物の輸出入で見れば確かにアメリカは買う方が多いが、知的財産の使用料、特許料、旅行者が落としてゆくお金など、サービスの分野では逆である。海外からの配当や利息も大幅なプラスだ。目に見えるものだけを眺めていては、公平な判断はできない。

 労働者が不満を募らせている本当の理由は、アメリカが生み出す巨額の富のほとんどが一部のお金持ちに行き、彼らのところには公平に配分されてこないと考えているからだ。
 大金持ちで、しかも、なんだかんだと理由をつけて税金を払っていない人間が、いくら声高に労働者を守るといっても、本気でそう考えているのか。起用される閣僚の人事から見てもはなはだ疑問である。
 時代の変化に即して、これからアメリカで起こる新しい産業に従事できる人材を育てること。これこそ真に求められる政策であろう。

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