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「800字文学館」

どんぶり勘定

中村 晃也

 食べ物屋の看板に丼飯のことを丼ぶり飯と記してあるのを見た。同じように、にわとりを鶏とりとか、かんむりをかん冠などと記された記述を見ると日本語の乱れは相当なものだと痛感する。

 漢字には山とか川とか鳥とか、直感的に象形文字からきたものだと判る文字がある。木が二本あると林、木を三個重ねて森と読む。木が四個重なればジャングルと読ませたい。
 どんぶりを漢字で書くと井桁の真ん中にチョンを入れて丼と読ませる。井戸の中に石を入れるとドブンとかどんぶらとか聞こえるのが語源らしい。

 さて、大き目の茶碗にご飯を盛り、具(トッピング)と出汁を掛けたものを総称して丼飯という。出汁をタレと呼ばずにソースという場合もある。
 具の材料は、牛、豚、鶏肉、卵、魚類、貝類、海老、大豆や玉葱をはじめとした野菜など多種多様だ。
 それぞれに対応して牛丼、豚丼、カツ丼、親子丼、照り焼きチキン丼、赤身の鮪を熱した鉄にたとえた鉄火丼、海鮮丼、うな丼、あなご丼、さんま丼、雲丹丼、いくら丼などがあり、発酵大豆を乗せた納豆丼、野菜や魚、海老などを衣と共に油で揚げた天丼、一切合財をミックスして中華風に仕上げた中華丼などのほかに、海峡丼、北海丼、魚河岸丼などいろいろだ。
 ローカルなものでは、帯広の豚丼、函館のまぐろ丼、あさりのむき身をネギと味噌で煮込んだ東京の深川丼、静岡のシラス丼、名古屋の八丁味噌で味付けした味噌カツ丼、関西のき(け)つね丼などがある。
 その他栄養を売り物にしたスタミナ丼があり、天滓と麩を交ぜたふわふわ丼やそぼろのピンクが特長の三色丼は見た目からの命名だろう。
 牛丼は牛鍋を丼飯にかけたのが原型で、諸説あるが吉野屋が一九七三年にフランチャイズを展開して全国に広がったという。

 予算を考えずに、手持ちの金で支払いをすることを丼勘定というが、OBペンクラブの会計はそんなことはない。会員の小腹が膨れてどんぶり化していることは別として。

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