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「800字文学館」

「AI」と「BI」

野瀬 隆平

 人工知能が更に進化したら社会や経済はどう変わるのだろうか。勉強したくて一冊の本を買った。
 帯を見ると、「AI」、「BI」と大きな文字がおどっている。AIはいうまでもなく人工知能のことだろう。さてBIとはなんだろう。人工に対応する言葉として本来の人間の知能という意味で、BはBiological(生物としての)かなと思ったが、そうではないようだ。

 AIが極度に進化したら、生活に必要な物やサービスを作り出すのに、これまでほど人は働かなくてもよくなるのだろうか。そうなれば、こんな有り難いことはない。正にユートピアである。
 しかし、作り出された物を手に入れるにはお金が必要であるが、働かなければ賃金は得られない。人工知能やロボットなどの生産手段を持っている者には莫大なお金が入るかも知れないが、職を奪われた人たちにはお金が入って来ない。人々の購買力が落ちれば物が売れなくなり、作る側も商売にならず困ることに。要するに、現在の経済システムでは、どうも具合が悪いことになる。社会の全員にお金が行き渡る方法を、今までとは異なる次元で考えなくてはならない。
 これまでも貧困や格差をなくす方策を、多くの人が考えてきたが、AIの進化という新しい時代に向かって、その重要性が益々高まっている。
 そこで出てくる考えの一つが、あらゆる人に一定のお金を給付するというベーシック・インカム(Basic Income)と呼ばれるシステムである。帯にあったBIとはこの略称だったのである。
 来るべき社会が安定的に成り立つためには、このBIの導入が一番良いというのが著者の主張である。今日、諸々の社会保障制度があるが、複雑でかつどうしても不公平感が否めないのも事実。BIならば収入の額に関係なく一律に給付されるので不正受給も起こらない。
 インフレになる恐れも否定できないが、それは給付額次第であり、コントロールが可能だのいうのだか、さてどうだろうか。

『人工知能と経済の未来』 井上智洋著 文春新書

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