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「800字文学館」

サヨナラ東電コンチワ東ガス

三 春

 電力自由化が導入されて以来、大口の法人は別として、一般家庭で積極的に乗り換えた例をあまり聞かない。東日本大震災で東京電力の評判がガタ落ちになったとはいえ、寄らば大樹の陰、供給不安、手続きが面倒、メリットを感じない等の理由から、動こうとしない人が大半。電力事業に手をあげた数十社も目立った営業活動をしていない。東電は胸をなでおろしていることだろう。

 さて、3年に一度のガス点検がつい先日行われた。キッチンや風呂のガス器具を点検するために屋内に入るので、訪問予定時間に合わせて待つ。
 一通りの検査が終わったところで電力契約を申し出ると、点検員は意外そうな面持ちで、この地域の点検が終わってからまた来る、と言う。他の点検先を待たせてはいけないし、点検にかこつけた営業だと非難されないためだろう。
 1時間後に再び訪れた彼は晴れやかな表情で契約書を作り始めた。電力自由化について客のほうから声を掛けることは稀で、大抵は素っ気ない顔をされるそうだ。シミュレーションによれば、これで我が家の電気代は年間12000円ほど安くなり、省エネ式給湯器を使っているおかげで更に3%引き、他にも様々なセット割引が適用されるらしい。

 すっきりした気分で買い物に出たら、我が家の脇道に「緊急工事」の立て看板が置かれて東ガスが掘り返しているではないか。なんだろう?と思いつつ夕食の支度をしていると午後七時頃に義姉がやってきて「ここ何日もガス臭かったから通報したのよ。ガス管の老朽化でガス漏れしてるんだって」。そういえば臭い……ような気がしてきた。続いて責任者らしき東ガス職員が――大規模なガス漏れなので昼夜の修復工事でも丸二日かかる、この一帯のガスをまもなく止める、携帯ガスコンロを貸出せる――と丁寧に説明し始めた。
 すわ一大事! しかし、ダメとなると何故かどうしても入浴したくなる。ネットで調べたら徒歩圏内に3軒の銭湯が健在、さすがは下町だ。たまには銭湯もオツだねぇ。

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