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「800字文学館」

波照間島とスマホ

塚田 實

 今年6月、石垣島に住む中学校時代の友人と、人が住む日本最南端の島「波照間島」を訪れた。人口約500人、周囲(海岸線長)15キロメートルの小さな島である。西表島を臨むニシ浜でシュノーケルを楽しみ、「日本最南端の碑」の前で写真を撮り、夕陽を見るため島の最西端「毛崎」に向かった。東シナ海に陽が落ち、残照の中で砂浜に妻へのメッセージを書き、写真を撮ってラインで送った。潮が満ちてくると消えてしまうだろう。

 夜は、星空観測タワーを予約していたので、戻ろうとしたら、辺りはすっかり暗くなっていた。友人が借りていたレンタカーにはナビがついていない。そもそも波照間島のような小さな島にはナビなど必要ないのだ。しかも居住地区以外に街灯は全くない。友人は、レンタカー屋でもらった地図を頼りに運転するが、細かい道までは書かれていない。車のライトに浮かび上がるのは背の高いサトウキビばかりで、いくら運転しても景色は変わらない。「確かこっちのはずだ」と友人は言うが、同じようなところに戻るだけである。星空観測タワーの集合時間は過ぎてしまった。焦りはつのる。
「スマホのナビで見てみようか」
 グーグル・マップを開けてみる。驚いたことにグーグルマップには、農道の細かい道まで表示されている。そして目的地をセットし、ナビの指示する通り、サトウキビ畑の中を友人に慎重に運転してもらった。15分位で島の東側にある星空観測タワーに着いた。

 電車に乗ったときなど、かなりの乗客が黙ってスマホを覗いているのをみて、「皆なスマホに頼りすぎ」と少し批判的にみていた。しかし、この時ほどスマホの有り難さを感じたことはない。闇夜に灯りである。文明の利器とも仲良く付き合おうとつくづく思い直した。

 星空観測タワーでは、時期的に南十字星は見えなかったが、満天の星空に天の川が鮮やかに流れ、木星や土星、火星などの惑星も明るく輝いていた。

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