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「800字文学館」

気象キャスターとアナウンサー

首藤 静夫

 夏の鳥取砂丘でのことだ。砂丘の暑さにまいった私は、近くのジオパーク会館に逃げこんで休憩をとった。すると、近くでよく透る声が聞こえてきた。
「では天気予報をはじめます。・・・明日は晴れて暑くなるでしょう・・・水分を取ってください・・・」
 おどろいて声の方を見やった。5、6歳の男の子が気象番組のまねごとをして遊んでいるのだ。大きな周辺案内図の前で身振り手振りを交えて・・・。一通り終わると最初に戻り、「では天気予報をはじめます・・・」。両親は聞きあきているようで、おざなりの拍手で応える。私は新鮮だったから何回も付き合った。
 この子は童謡よりアニメソングより、テレビの気象番組に魅かれているらしい。確かに気象番組は取り上げ方が変わった。かつては番組の隙間で、単調地味な報道だったと思う。今はどうだろう、人気の気象キャスターをそろえ、モーニングショーでも昼間のワイドショーでも堂々の定番だ。局アナよりも華がある予報士が少なくない。予報の最後に戯れ句を披露する予報士、爽やかなルックスと語り口でタレント並みの人気がある予報士、小道具を使って説明を面白くする予報士など多彩だ。彼ら彼女らの明快な説明や歯切れの良さ、発音のきれいさ――子供がまねしたくなるのは自然なのだろう。

 一方、テレビ局のアナウンサーが精彩を欠いている。以前はNHKも民放各局も、放送局を代表する名物アナや論説委員がいた。今はお笑いタレントやフリーキャスターを前面に出し、アナウンサーは裏方に回ることが多い。視聴率目当てに外部のタレントに頼る局の思惑なのだろうか。
 アナウンサー自身の話し方も気になる。日本語の美しさ、流麗さを損なっている。テレビの影響力を考えると、子供たちの将来の日本語が心配だ。放送局は確固たる方針を、局アナは個性とプライドをもって良質の番組制作にあたってほしい。
 無心な子供に好かれる気象キャスターのように、局アナの頑張りを期待したい。

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