作品の閲覧

「800字文学館」

ワイドショーの効用

内藤 真理子

 築地市場が豊洲への移転寸前になって一旦中止になった。それ以来、都庁周辺で展開される摩訶不思議な状況が、モーニングショーでワイドショーで、と長時間取り上げられている。
 私は、朝、昼と見てその後のワイドショーまで見ているが、いくら見ても見飽きない。司会者は私の怒りを引き出すように話す。
「きれいな土に入れ替えたものがある筈の建物の地下に、空間があるんですよ。技術者会議で決まった、土があるべき所に盛り土がされていなかった。その上、地下空間には水が溜まっている。どうしてこんなことになったのでしょうね」。視聴者を煽り立て怒りを誘う。
「そうよ、何故そんなことになるの。専門家が時間をかけて検証したんでしょう。それを無視して良いワケ?」
 朝食をとり乍ら、昼食の最中も 司会者の上手な誘導で私はテレビに向かって怒りをぶつける。その瞬間、日頃の憂さが吹っ飛び、スカッとする。
 連日の放送で、市場長とは築地市場の人ではなく、都庁では局長クラスの地方公務員だ、ということを知った。その名の通り、築地市場、豊洲移転のトップリーダーなのに、発覚するまで、建物の地下に何故盛り土をしていないのか、どうして地下空間が出来たのか、知らなかったと言う。
「市場長なのに聞いていない? 自分の目で進行状況を視察もしていない? 木偶の棒が上等の椅子にお飾りで座っています、と言っているようなものじゃない。そんなことを臆面もなく言うワケ? 恥を知りなさい!」と吠えて、又スカッとする。
 更に、元都知事の「だまされた」発言。
 石原慎太郎の素直な気持ちだろうが、正直な人を選んだ都民は、逃げ隠れが出来ない。どんな不正があっても税金で償うことになる。
 かくなる上は、石原慎太郎は華々しき人生の集大成として、しがらみを断ち、私財を擲って悪を暴き、すべてが白日の下に晒された暁に「だまされた」責任を取って頭を丸める。
 こんなシナリオのワイドショーがあったら、最高にスカッとできるのに……。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧