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「800字文学館」

太極拳の楽しみ

松谷 隆

 楊名時八段錦・太極拳を始めて、まる16年が経過した。一昨年に入会した「太極拳友の会」の稽古で、年6回、神田の本部道場に出かけ、毎回新しいことを学ぶのも楽しみである。
 しかし、この1年ほど楽しいことやうれしいことが多かった年はない。

 一番うれしいのは、2月に町内会から「お茶会で椅子に座ってできる太極拳の指導を30分で」との要請を受けたときのこと。健康維持を目的とし、呼吸法主体の八段錦のうち、胃腸を丈夫にする動作と慢性病の予防と回復に効果のある動作を私が、それに「座ってする太極拳体操」を家内が指導した。受講者は約50名、内経験者は6名だった。
 八段錦を終わり座ろうとしたとき、受付の女性がいきなり私の手を握り、「先生、私の手は冷たいですか」と聞く。一瞬驚いたが、「いいえ、暖かいですよ」「良かった。私冷え症なので、こんなに温かくなったのは、生まれてはじめてです」と喜ばれた。
 この話を「太極拳友の会」のお茶会で披露すると、「その方には八段錦の効用が最大限に生きましたね。良かったですね」とのコメントをもらい、指導した甲斐があった。
 好評だったのか、場所を提供した介護付き養護施設から毎月1回の講習会を要請され、3月から受講者7、8名で行っている。だが、くだんの女性は参加しなかった。

 5月中旬、教室の受講者で折り紙仲間の女性がくも膜下出血で、入院、開頭手術を受けた。頭が割れそうな痛みで、主治医に連絡したことが幸い。3週間入院後、9月中旬にリハビリ終了で、後遺症もないとのこと。「ご本人も『太極拳をしていてよかった』と喜んでいる」と彼女を見舞った受講者から聞いた。

 また先週、1年前から教室に参加している女性から「最近、周りの人たちが『腰が痛いと言わないね』と言う。自分でも意識していない。太極拳のおかげで、腰痛が消えました」と感謝された。

 太極の道はまだまだ長い。稽古を重ね、自己研鑚を続け、仲間と共に楽しさを求めて行きたい。

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