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「800字文学館」

悩めるアメリカ人

野瀬 隆平

 嫌われ者同士の戦いと云われる今回の大統領選挙。アメリカ国民の中には迷っている人も多いだろう。

 そんな中、先ず態度を明確にしたのが、ニューヨーク・タイムズだ。9月24日に、クリントンを支持する旨の論説を掲げた。「単にトランプではないから」という消極的な理由ではないとし、この女性候補の永年の活動実績を並べて積極的に良いと評価している。
 翌日の紙面では、逆に何故トランプでは駄目なのかを、ここまで悪く言うかと思うほど言葉の限りを尽くして述べている。
 同紙はこれまの選挙でも、どちらの候補を支持するか明らかにしてきた。ケネディ以降はすべて民主党側だ。リベラルであることを自他ともに認める新聞であれば当然のことであろう。ちなみに、過去14回の大統領選挙で支持し、大統領に選ばれたのは、ケネディ、ジョンソン、カーター、クリントン(2回)とオバマ(2回)の7回であり、勝率は5割という事になる。

 9月30日には、発行以来ずっと中立の立場を保ち続けてきた全国紙のUSA Todayも、たまりかねたかのように、「トランプにだけは絶対投票するな」との論説を発表するに至った。
 どこがダメなのか、厳しい言葉を使って具体的に書いている。しかし、ニューヨーク・タイムズと違う所がある。それは、トランプは駄目だとしながらも、「かと言って、クリントンを無批判に支持するものではない」としている点だ。
「ではどうすれば良いのだ」と反問されることを見越してか、次の様な答えを用意している。
「自分の信念に忠実であれ」と。そんな抽象的なことを言われても、との予想される更なる疑問には、それはクリントンに投票するという意味に解釈してもらってもよいし、共和党、民主党以外の党の人に投票する、あるいは予備選挙で敗れた候補者や、その他の人の名前を書くこともありえよう、と具体的な選択肢を示している。
 ただ、論説の最後に、「トランプだけには絶対投票するな」と念を押すことは忘れていない。

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