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「800字文学館」

9月、アラスカでオーロラを観る

斉藤 征雄

 アンカレッジで二泊してアラスカ鉄道で北へ向かう。白く輝くデナリ山を見ながら美しい針葉樹の森をのんびりと進む。七時間半で、デナリ国立公園の入り口にあるデナリの町に着いた。ここで一泊。
 その後はフェアバンクスで二泊する予定。ここは北半球オーロラベルトのど真ん中に位置し、年間240日以上オーロラ現象が発現するが、肉眼で見えるのは晴天の日に限られる。晴天率が高いこの地は、世界有数のオーロラ鑑賞ポイントなのだ。

 快晴だった空が厚い雲に覆われ始めた。その日の夜いよいよオーロラを観るというのにだ。デナリからフェアバンクスまでバスで二時間、うとうとして目が覚めるとフェアバンクスに着いていた。なんと、奇跡的に雲ひとつない青空に回復していた。
 郊外に日本人が経営するオーロラ観測ロッジがあった。22時過ぎホテルから移動、セルフのコーヒーを飲みながら待つ。一時間ほどで、そろそろですね、とロッジの主人。それっとばかりに鑑賞用ベランダに飛び出した。

 北の空の暗闇に、東西に太く白い線が伸びている。見るみるうちにその線が動き出した。線が壁のように縦に伸び、そして迫ってくる。何かが降って来ているようにも見える。動きは止まらず頭上真上にまで近づき、全天に広がった。頭の上でカーテンが揺らめいているようだ。まさにオーロラ、息をのむ。
 しかし色はイマイチだった。周りがかすかに緑やピンクがかって見えるが全体に白。写真で見る赤や緑のカラフルなオーロラではなかった。肉眼で色が見えることはなかなかないらしい。ただ、白く見えたこの日のオーロラも写真に撮れば濃い緑に写った。
 ロッジの奥さんに、今日の出来は?と聞くと、ホームランではありませんが二塁打か三塁打でしょうね、との答えだった。
 繰り返す天体ショーを明け方二時まで満喫した。翌日は雨、二日目のオーロラは早々と断念した。

 感動のオーロラ鑑賞の旅だった。帰りの飛行機で、ホームランのオーロラはどんなだろうかと想像した。

(デナリ山:2015年アメリカ合衆国政府は旧マッキンリー山をデナリ山と呼称変更した。標高6190m)

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