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「800字文学館」

親族親睦会

池田 隆

 核家族化や家庭崩壊が進む社会風潮のもとで親族親睦会を立ち上げた。初会合は八年前、父の三十三回忌に兄弟四人で相談し、以後は四年毎、五輪の年に開催することとした。
 父母の血を引く者とその配偶者を会員とし、父母を第ゼロ世代、我々兄弟が第一世代、その子や孫たちを順に第二、三世代と呼び習わす。現在の会員数は第一から第三世代までの四十名である。
 今年は母の命日に三十一名が集まり、鎌倉での墓参後に港の見える丘公園のレストランに移動し、第三回目の親睦会を和気あいあいと催した。
 前回までは海外旅行などの話題で元気だった第一世代だが、齢には勝てず病気の話が増えてきた。第二世代は中年の働き盛りである。幼い頃に一緒によく遊んでいた従兄妹たちだが、今や種々の分野で活躍している。彼らの間で仕事上の繋がりが偶々生まれることも有るという。第二世代の女性陣はフルタイムで働くキャリアウーマンが多く、話題も第一世代の専業主婦とは違い社会的である。
 第三世代は大学出立ての社会人から幼稚園児まで年齢層が幅広い。四年前には可愛い小学生だった子供たちも見上げる程に背が伸びた。大学生活を謳歌中の若い男女も増えた。彼ら彼女らはLINEを使って互いに連絡し合っているとのこと。次回には第四世代が登場するかも知れない。
 平和が続くと親族間の付き合いを煩わしく思う場合もあるだろう。だが、天変地異や戦乱、原発事故、国家破綻などで社会が深刻な異常事態に陥ると、政府や勤め先は頼りにならない。戦争体験者はよく語っていた。戦災後や引揚げ時には一時的にせよ、先ず頼りにしたのは親類縁者だったと。
 それには日頃より血縁を天から授かった絆として大切にしておかねばならない。「治に居て乱を忘れず」。これは治世者だけでなく、庶民にも通じる格言である。
 しかし先人の貴重な体験も世代が替わると伝わり難い。より確実に伝承するには、この親族親睦会のような慣習化や制度化が必要なのである。

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