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「800字文学館」

しあわせは……

内藤 真理子

 映画「ブルックリン」を観た。
 不況下、仕事を求め、アイルランドからニューヨークのブルックリンに移住をしたエイリッシュ(シアーシャ・ローナン)は、昼はデパートで働き、夜は会計士をめざして大学に通い始めた。だが内気な彼女はなかなか馴染めず、ホームシックにかかる。
 主人公は、原節子を髣髴とさせるような控え目で美しいお嬢さんだ。
 ある日、下宿の人達と行ったダンスパーティーで、トニー(エモリ―・コーエン)と知り合う。
 彼はイタリア人で、輝く目をした陽気で真面目な青年だが、決して美男ではなく、背が低い配管工である。素直な彼女は彼の誠実な求愛により、笑顔と自信を取り戻していった。
 観客の私は《他にも素敵な人が沢山いるのに、彼の求愛に流されては駄目よ》とハラハラした。
 不幸がありアイルランドに一時帰ることになった。
 旅立つ前にトニーは、まだ電気も通っていないロングアイランドに彼女を連れて行き、自分が手に入れた土地を見せ、ここに家を五軒建てて自分の兄弟四人と両親で建築会社を造るつもりだ、と将来の夢を語り結婚を迫った。彼女は承諾し、二人は役所で結婚届を出した。
 故郷は落ち着いた街並みで、どの人も顔見知りだった。
 清楚で美人の上、すっかり垢ぬけした彼女は、背が高く教養のある青年ジムと親しく話すようになる。彼は一生この町で暮らしたいと言い、彼女を彼の瀟洒な家に招いた。町中が二人の結婚を噂している。トニーからは下手な字の手紙が届くが封も切らない程、彼女はジムに魅かれていく。
《無理もないわ。ジムの方がふさわしいもの。何とかならないかしら》
 そんな時、町の意地悪な夫人に呼ばれ、彼女の姪がブルックリンに住んでいて「貴女、結婚したのですって、世間は狭いものね」と言われた。
 その言葉で彼女は、狭い閉鎖的な生活なんて真っ平! と思い、ブルックリンに帰り、自由の素晴らしさを噛みしめながらトニーの胸に飛び込んだ。
《彼女は幸せを掴んだのね》

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