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「800字文学館」

野生の攻防

内藤 真理子

 縁側の籐椅子に座って外を見ていたら、我が家の小さな庭に尾長がやって来て、嘴で芝生を突っついている。その後ろに少し離れて鳩が降り立った。先客の様子をうかがっている。尾長は後ろに目があるかのように、芝を突っつくのをやめて、同じ姿勢のまま固まっている。鳩は尾長を挑発するように、二三歩前に出た。その時である。尾長は素早く鋭角に鳩のほうに向きなおり、威嚇したのだ。鳩は後ずさりしてしばらく持ちこたえていたが、飛び去って行った。

 その尾長かどうかはわからないが、巣を作ったらしい。
 ある朝、鳥が十羽くらい、騒々しい声で鳴き乍ら上空を回っている。
「なんだ、どうしたのだ」 義父が庭伝いにやってきた。
「あそこに、鳥の巣があるみたいなのですよ」
 毎年、秋になると、鳥の巣の跡が見つかるので、今年もまた作ったのだろうと見当をつけて返事をした。
「それにしても、うるさいなぁ」
「そうですねぇ」 私も外に出てみた。巣は庭の奥の杉の木にあるらしいが、蚊がぶんぶんしていそうで近寄りがたい。遠目に見ていると、木の幹で何かが動いたような気がした。
「お義父さん、あそこに蛇がいるのではないですか」 半信半疑で指を指した。
「どこだ?」 と言いながら義父も側に来て覗いている。
「本当に蛇だよ」。まだ見ている義父を残して、私は慌ててとびのいた。遠くに下がってみると、確かに木の幹が動いている。
 蛇は卵を狙っているのだろう。あの鳥たちは、蛇を威嚇しているのだろうか。気が狂ったように縦横に飛びまわっている。
 すると、義父は、長い物干し棹を手に取って庭の奥に向けた。
「お義父さん、何をするのですか」
「蛇をおどかすのだよ」
「やめて下さい!」私は悲鳴をあげた。
 鳥たちはいっぺんにいなくなった。蛇が恐くて結末は見ていないが、絶対に、まんまと卵を食べただろう。野生の攻防なのに!余計なことを! 私は怒ってしばらく義父と口を利かなかった。
 まだ義父が健在だった三十年も前の話だ。

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