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「800字文学館」

清 里 町

清水 勝

 清里といえば避暑地として有名な八ヶ岳の麓が思い浮かぶが、もうひとつ北海道斜里郡清里町がある。ここは知床の付け根に位置し、百名山に数えられている斜里岳の麓に広がる大農業地帯だ。
 この街を知ったきっかけは数年前の『日経ビジネス』に掲載された「観光客はいらない、農業で自立する」という記事であった。決して観光資源がない訳ではなく、「裏摩周展望台」(お奨め)、「神の子池」、「斜里岳」(1574m)等があるが、それ以上に重要な資源は農業であるという。
 そこで知床観光の帰りに町営清里温泉『緑青荘』に泊まってみた。町役場のすぐ傍にあり、日帰り温泉を併設している。人口4200人程の街としては大へん立派なもので、町民の方が利用していた。
 立派なものは他にもある。農道だ。全ての農道が舗装されており、大型農機具がスムーズに出入りできる。そして農家の自宅も立派だった。それもそのはず、農家の平均耕作面積は37haもあり、大規模農業を展開している。そこでは小麦、じゃがいも、ビート等が生産されているのだ。一直線の農道と防風林に区切られた広大な畑地は全国農村景観特選20選に選ばれており、これこそが正に観光資源だ。
 さらに農業で自立するために、豊かに獲れるじゃがいもと透明度日本一の斜里川の清流を活用して、「清里じゃがいも焼酎」が町営のロマンチックな醸造所で造られている。清里農協も負けてはいない。じゃがいもを単に出荷するだけでなく、でん粉製造工場を持ち商品化している。
 こうした農業生産を促進させるものは太陽の力だと、泊まってみて実感した。6月の日の入りは午後7時で、翌朝の日の出は30時30分だった。朝が早いのだ。日帰り温泉はひと仕事を終えた人が身体を癒すためであり、清里町には3ヶ所もある。北海道で人気のあるパークゴルフ場は4ヶ所あり、芝生が美しい。
 ふと、斜里岳を望む温泉に浸りながら、老後の幸せとは何だろうと考えさせられた。

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