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「800字文学館」

白内障は俺だけか

稲宮 健一

 冬の夕方、ゆるい上り坂の道で交差点に差しかゝった。日没前の沈む西日が信号器の後ろから差し込んでくる。まぶしい!信号器まわりの視界が橙色に塗りつぶされ滲んで見える。信号が見えない。左右の信号の赤を見て通った。
 かねがね聞いていた白内障の症状だ。尋ねた近所の眼医者の助言はまだ視力はあるので、点眼薬で進行を遅らせたら如何か。しかし、運転に支障があっては困る。白内障手術の実績を誇る湘南鎌倉病院を受診すると、当然手術を受ける前提で話が進んだ。
 一泊入院で手術を受けた。何か得体の知れない黒いものが覆われたガーゼの向こうに見えたなと思っているうち、手術は終わった。あくる朝の検診で、ふさいでいたガーゼを剥がすと、目の前の白地が、漂白したばっかりのように真っ白に見えた。小さな字がはっきり見える。水晶体が濁るってこうゆうことかと、分かった。まだ、点眼の継続とか、洗顔の禁止とか、不自由はあるが、もうしばらくの辛抱だ。

 水晶体の濁りは手術で治るが、今一つ濁って先が見えないのが、アベノミックスの三本目の矢だろう。金がばまかれる、持っている金は目減りする、使え使えの大号令だが、金が社会を回って膨らむ道筋が見えない。高度成長の頃は物価が上がるが、給料も上がる、インフレが当然だった。しかし、今は人々の構成、考えが全く変わった。三本目の矢は短期の成果を焦らず、どっしり構え、次世代を担う人材の質の向上に熱をいれたら如何ですか。地味な成果だが、達成できれば評価される。

 シリコンバレーはインド人、中国人が多数働いている。アッファーマティブ・アクションでマイノリティを優遇し、社会の安定を図っている。例えば、国内の介護の現場では、海外の人材を研修という名のお手伝はさせるが、正式な資格試験を日本語のみで行い、多くの育てた人材を帰国させる。出生率向上だけでなく、けちな純血主義を捨て、門戸を広く開け、新鮮な人材を迎い入れる策を講じたらどうか。

(二〇一六・六・九)

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