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「800字文学館」

オバマ広島訪問によせて

池田 隆

 オバマ米大統領の広島訪問が決まり、被爆者への緊急アンケートメールが大手新聞社より私のところにも入った。

  1. 訪問を評価するか否か、その理由
  2. 「謝罪」を求めるか否か、その理由
  3. 彼への要望

の質問である。それに対し次のように回答した。

  1. 評価する
    理由:世界、とくに核保有国に対する非核化努力へのアッピール効果が高い。
  2. 求めない
    理由:戦争行為に対し「謝罪する、しない」という問題が今では国家間の外交駆け引きの材料となっている。非核化はそのような低次元の問題ではなく、人類共通の課題である。戦争終結のための核使用の是非や戦争責任の所在といった過去の事情に捉われず、「今後いかなる事情があっても使用しないように努力する」と、世界で最も権限を有する米大統領が宣言する事こそが最も重要である。謝罪要求は国家間の軋轢や復讐合戦に発展する恐れもある。
  3. 自由記述:プラハ演説にも優る格調の高い内容とそれを実現するための具体的な道順(ロードマップ)の提案を演説に折りこんで欲しい。

「謝罪を求めない」という日本政府の今回の姿勢は日米関係に敢えて波風を立たせたくないという意図であろうが、そのことに関し朝日新聞は昨日の朝刊で「オバマ大統領の迎え方」と題し、塩野七生氏のインタビュー記事を大々的に報じていた。彼女は「謝罪を求めず、無言で静かに迎える方が、謝罪を声高に求めるよりも、断じて品位の高さを世界に印象づける。アジアの二つの強国のトップが西欧諸国を歴訪しながら日本の戦争責任の謝罪不足を触れ回ったが、丁重に聞き流された」と述べる。
さすがに世界政治史に通暁した彼女の高等戦術的思考である。諺「沈黙は金」は日本でしか通用しないと外国通は否定するが、究極的には沈黙が雄弁に勝るのであろう。
マスコミやネット社会は原爆投下に対する謝罪要求を騒ぎ立て過ぎる。謝罪の要求と拒否が復讐の連鎖を生み、戦いが続いてきたという歴史を忘れてはならない。

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