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「800字文学館」

浅草歌舞伎座の『三人吉三巴白波』

都甲 昌利

 浅草歌舞伎座へ初めて行った。出演者は、30歳の尾上松也以外、坂東巳之助、坂東新悟、中村米吉、中村隼人、中村国生、中村鶴松、中村梅丸は全員が20歳代だ。それに経験豊かな中村錦之助が出演。
 そんな彼らに団十郎、勘三郎、仁左衛門、玉三郎などヴェテラン役者の演技ができるのだろうかと疑問がわく。
 これは杞憂に終わった。古参に負けないくらいピチピチとした演技し腕を振るう。そう言えば、巳之助は先日亡くなった三津五郎の息子だし、他の若手も名だたる歌舞伎役者を父に持つ。米吉や梅丸の女形は若い皮膚に白粉を塗るので実に綺麗だ。ほれぼれとした美人になる。

 今年は江戸末期から明治中期にかけて活躍した河竹黙阿弥生誕200年の節目の年である。彼は幕末の世相を反映し、社会の底辺に生きている盗賊や小悪党の活躍を描いた。その中でも「三人吉三巴の白波(大川端康申塚の場)」が有名だ。
 まず「吉三」と名乗る三人の盗賊を登場させる。お嬢吉三、お坊吉三、和尚吉三。舞台は節分の日の大川端。夜鷹のおとせ(梅丸)は客が落とした百両を返そうと男を探している。そこへ振り袖姿の美しい娘が通りかかり道ずれとなる。突然、娘はおとせの懐から百両を奪い川の中へ突き落してしまう。
 実はこの娘は世間で噂の女装の盗賊、お嬢吉三(隼人)。思いがけなく手に入った百両をもって立ち去ろうとするのを傍らの駕籠の中からお坊吉三(巳之助)が見てしまう。お互いが争っているところに同じく盗賊の和尚吉三(錦之助)が止めに入る。二人から争いの事情を聴いた和尚吉三は喧嘩の種の百両を自分に渡せと言う。その代り自分の両腕を切れと申し出る。
 この身体を張った和尚吉三の侠気に感激した二人は、和尚吉三に兄貴になってくれと頼み込む。奇しくも同じ吉三の名を持つ三人は、それぞれの因縁を思いながら血杯を飲み交わし義兄弟の契りを結ぶ。無法者三人が血縁より義理を大切にする幕末の退廃的な世相を表していると言えそうだ。

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