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「800字文学館」

第三の男

中村 晃也

 最近TVでC・リード監督の懐かしい映画を見た。冒頭のタイトル画面から全編を通してBGMはA・カラス演奏のチターのみ。あるときは甘く、ある時は切なく各場面を盛り上げるお馴染みのあのメロデイだ。

 舞台は米英仏ソによる四分割統治下のウイーン。アメリカ人の作家(J・コットン)が古い友人(O・ウエールズ)を訪ねると、前日に自動車事故で死亡し、今日が葬儀だと告げられる。埋葬の場でイギリス治安警察の少佐(T・ハワード)と魅力的な友人の恋人(A・バリ)に出会う。
 少佐から、彼は病院の薬剤師と組んでペニシリンを横流しする闇商人で、混ぜ物をした薬剤で大勢の子供が死んでいると知らされる。

 自動車事故の目撃者から、事故死したのは彼ではなくて共犯の薬剤師だったこと、現場に未知の第三の男がいたことを聞くが、その目撃者も何者かに殺害される。
 作家は偶然見つけた彼(第三の男)に、プラーター公園の観覧車の上で自首を勧めるが決裂。
 恋人を囮にして誘い出された彼は、警戒を知るや網の目のような下水道に逃げ込み、地下の拳銃戦の結果作家の一弾に倒れる。

 彼の埋葬の後、墓地の並木道で彼の恋人を待つ作家の前を、彼女は固い表情で一瞥もせずに歩み去る。彼女が遠くから作家の傍を通り過ぎるまでのノーカットのラストシーンは、チターの曲とあいまってまさに名場面、いつまでも印象に残っている。

 一途に筋書きだけを追った高校時代とは異なり、今回は時代の背景に目が行った。
 国籍がみな違う関係者。当時貴重なペニシリン。爆撃後のウイーンの街の荒廃。瓦礫に囲まれた暗い石畳の街に響く靴音。崩れた階段を駆け上がるシルエット。ソ連統治下の観覧車上での言い合い。四カ国の警察が同居している警察本部。アメリカタバコを欲しがるソ連の将校。爆撃を免れた迷路のような下水道等々。

 過日、映画と同じ墓地の並木道を妻に歩かせて8ミリで撮影した。が、残念ながら足の長さが致命的で、期待した名場面は再現できなかった。

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