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「800字文学館」

朝ドラの姉妹夫妻

池田 隆

 朝ドラ「あさが来た」は主人公の「あさ」が悲願の女子大学を創設する大詰めとなった。幕末の京都で豪商の娘として生れた彼女は人並み外れた向学心と行動力に富む天衣無縫なおきゃんだった。大阪の両替商に嫁ぎ、維新で傾きかけた家業を自らが先頭となって立て直し、さらに拡大する。
 名代の女実業家となるが、教育者の成澤と出会い、日本初の女子大学設立の意気に燃える。夫の新次郎は商売嫌いで小唄と三味線が得意な優男、巾着を揺らしながら直ぐに家を出て行く。しかし肝心な時に何気なく彼女を裏から支えている。
 主人公の姉「はつ」はお淑やかで芯のある良妻賢母である。倒産して自暴自棄になる真面目な夫を励まし、姑のいけずにも耐え、和歌山でミカン農業を健気に営む。

「あさ」は現代エリート女性の嚆矢で理想であろう。昨今、女子の高等教育が一気に進み、多くの分野で女性が指導的な立場で活躍し、結構なことである。ただ大衆化しすぎて婚姻率低下や晩婚化、高齢出産などの社会問題の一因になっている。
 ドラマ作者も意識してか、対照的な姉妹夫妻の生き方をいずれも肯定的に描いている。朝ドラを見て語り合うわが夫婦の感想もこの辺りまでは大差ない。だがつづけて「あなたはどちらのタイプの方が良かった?」と聞いてきた。正直に「姉の方だね」と答えると、カラオケ一つ歌えない私を見ながら「私は新次郎さんだわ」と嫌味。

「あさ」のモデルは明治の女傑「広岡浅子」である。その特別展示が日本女子大の成瀬記念館で催されていると知り、二人で出掛けた。写真を見ると、波瑠さんが演じる「あさ」とは似ても似つかない少し陰のある知的な女性である。姉のモデルは結婚後若くして亡くなっている。夫は女中さんとの間に一男三女を儲けていた。
 妻は溜息をつき、私はほっとする。そういえば「あさ」と「はつ」は中年になっても目尻に小じわ一つ出ていない。朝ドラはやはりお伽話だと改めて納得し家路についた。

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