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「800字文学館」

ウィメンズマラソンテレビ観戦記

内藤 真理子

 高いビルに囲まれ、帯状の道路を埋め尽くした色とりどりの女性走者達。
 二〇一六年の名古屋ウィメンズマラソンは約二万人の参加者でスタートを切った。
 テレビ画面では、リオオリンピックの選考レースに命をかけている選手達、タイムを競う真剣な走者を始め、完走を目的にしている笑顔溢れる面々を映し出す。中には奇抜なコスチューム姿やぬいぐるみを被った人達もいて、そのすべてが女性。まるで万華鏡のように華やかだ。

 始まると何キロも行かないうちに先頭集団が出来た。
 そこからテレビは選考レース一色になった。六キロを過ぎた頃、野口みずきが遅れ始める。画面で先頭集団にいる選手たちのプロフィールが次々に紹介される。どの選手もここに至るまでにドラマがあり、このレースにかける意気込みが、走っている姿ににじみ出ている。
 三〇キロを過ぎると外国人招待選手はバーレーンのキルワ選手一人になったが、ダントツで速い。そのキルワに田中智美が食らいつく。三五キロ地点で、苦しそうな表情の小原怜が、田中に並ぶ。田中の表情は落ち着いている。優勝候補だった木崎や目ぢからの岩出、その他の選手は日本人の第二集団だが、日本人トップに立った二人はお互いに一歩も譲らず並走。他を寄せ付けず、勝負はナゴヤドームまでもつれ込んだ。
 最後の直線はまるで徒競走のような全力疾走。わずか一秒の差で田中が勝利をおさめた。一秒の明暗は壮絶なドラマを見ているようだったが、次々にゴールをする選手たちの胸の内はいかばかりだろう。野口みずきが先頭から十分くらい遅れて手を振りながらゴールした。優勝を目指して過酷な練習を積んできたのだろうに「完走できてよかった」と晴れやかな顔でインタビューに答えていた。

 このレースの特典として、完走者の一人一人に、『おもてなしタキシード隊』の男性からティファニーのペンダントが手渡された。わが息子もその一員なのだが、テレビに映らないのが残念だ。

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