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「800字文学館」

「差別用語」

野瀬 隆平

 NHKのラジオでフォスターの名曲集を放送していた。
「次はオールド・ブラック・ジョーです」のアナウンスに続き、あの懐かしいメロディーが流れてくる。アメリカのどこかの合唱団が歌っているようだ。歌詞の終わり、I hear their gentle voices calling old black Joe に差し掛かった。聴いていると、何とblackが oldに変えられて、old old Joeと唄われているではないか。そうか、アメリカではblackは差別用語なのだ。

 そこで思い出したのが、日本でも同じように歌詞が変えられた歌があること。終戦直後に流行った笠置シズ子の「買い物ブギ」である。
 店屋のおやじに、「……おっさん おっさん これなんぼ」と何度たずねても返事がない。実は、店主は耳の不自由な人なのである。最後に「わしゃつんぼで聞こえまへん」が落ちで、「あーしんど」で終わる。
 ところが、このつんぼが差別用語で放送できない、苦肉の策で「わて聞こえまへん」と単にこの単語を省いただけ。これでは歌詞の本来の意味が伝わらない。けれども、あえてこうせざるを得ないのが苦しいところだ。

 ところで、ユーチューブではどうなっているのか気になって調べてみると、オリジナル通りのものと修正されたものと両方ある。例えば、「買い物ブギ」では、笠置シズ子が歌っているのは、そのまま堂々と「わしゃつんぼで聞こえまへん」「あーしんど」となっている。一方、中村美律子がカバーして歌っている比較的新しい版では、単に「聞こえまへん」だ。
 フォスターの曲の方は、ほとんどがold black Joeとなっているが、いくつかは、old old Joeに変えられており、アメリカでもその対応が分かれていることが解る。

 さて、差別と言えばこんなこともある。子供の頃に馴染んだ『桃太郎』の童話。桃太郎が、犬、猿、雉を家来にして鬼退治に行く話だ。しかし、家来は主従関係を表わす言葉であり、人間を差別するので好ましくないと、家来ではなく「仲間」に置き換えられている本があるという。
 こうなると少々行き過ぎではないか。

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