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「800字文学館」

禁じられた遊び

志村 良知

 映画『禁じられた遊び』。「ミシェル」という声につられて保護場所を離れてしまったポーレットが、雑踏にのまれていくあのラストシーンで涙しなかったら人間ではない。

 1952年公開、ルネ・クレマン監督のこの映画は、1940年6月のパリ陥落を背景にしている。超低予算で、俳優は全員無名、音楽もスペインの新進ギタリスト、ナルシソ・イエペスのギター一本に委ねられた。これが大成功で主題曲『ロマンス』は『禁じられた遊び』として映画音楽のレジェンドになった。
 禁じられた遊びとは、両親と共にドイツ軍の空襲で殺されたポーレットの愛犬ジョックや動物たちのお墓に立てる十字架集めのこと、ミシェルとは、ポーレットが一時的に保護された農家の少年で十字架集めの実行犯である。

 冒頭の難民への空襲シーンも低予算故のニュース映像流用で虚構がある。まず、襲いかかるのが対機甲部隊用の爆撃機編隊というのはありえない事であるし、機銃掃射で両親の命を奪うFW―190は1941年の就役である。
 道路を塞ぐ難民の群れ自体、前線に急がなければならないフランス軍にとっては障害物であったが、ドイツ軍にとってはこれ幸いで、攻撃などする必要はなかった。戦史研究家レイモン・カルチェは「道路は難民で埋まった。フランス軍は残虐行為に訴えてでも道路を軍の専用としなければならなかったが、それをしなかった」と書いている。しかし、そう言っていたのでは物語が始まらない。

 この曲の出だしは開放弦が多く、右手も分散和音演奏の定型で易しい。熱心に取り組めば、ギターを始めて三か月位で家族になら聞かせられる。
 サウンドトラックでのイエペスはこの易しい曲を淡々と弾いている。実際にはあのように弾くのは難しい。どうしても感情過多になってしまうのだ。
 スペイン人に聞いた話だと、この曲は本場でも『禁じられた遊び』として人気があり、これが弾けないとギターが弾けるとは認められないそうである。

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