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「800字文学館」

もし道に空き缶が落ちていたら……

三 春

 O校の生徒は ― 本を読むことに夢中で缶が落ちていることに気づかない
 F校生は ― きちんと拾ってゴミ箱に捨てる
 J校なら ― その空き缶で缶蹴りを始める

 これは3つの都内私立女子校(中高一貫)の校風を表わした例え話。後輩がどこかで仕入れてきた。

 O校は勤勉で何事にも真剣に取り組む校風、いわばエリート養成校だ。古風なジャンパースカートの制服。女子校には珍しく理系に強い。大学時代の友人も、スペイン語専攻なのに確かに理系にも強く、高校生に数学を教えて貯め込んだへそくりで別荘を買った。

 F校は礼儀や言葉遣いなどの躾けに厳しく、節度をわきまえた品位を身につけることを目指すという。フランス語の授業もあり、語学教育に力をいれるカソリック系である。いかにもお嬢様らしい「ごきげんよう」の挨拶に、下町育ちの私は大いにビビった。

 J校は個性や自主性を重んずる「見守り型」の教育方針だ。明治3年に設立された日本初の女子校でプロテスタント系。校則も最小限の自由な校風には今や制服すらなく茶髪もミニもOK。積極性や自主自立を促すためか、卒業生は「気が強く、離婚率が高い」という都市伝説(?)も。

「缶蹴り」出身の私としては、「やんちゃで気まま」と言われたようで少しばかり耳が痛いが、自由で柔軟な発想に好意的な例え話だと勝手に受け止めている。
 やんちゃだが柔軟という意味では思い当たる節もある。私は毎日のように遅刻し、同じく遅刻ばかりのアメリカ人先生が使うタクシーに同乗させてもらってのぎりぎりセーフがしばしば。しかし連続5回遅刻のときはさすがに気まずくて、皆が礼拝中の隙を狙い、窓によじ登って空っぽの教室に忍び込んだ。そこまでは柔軟な対応だったのに、「鍵のかかっている教室にどうやって?」と迫られ、侵入路を白状して朝っぱらからお小言頂戴。昼になってお弁当を忘れてきたことに気づく。パンを買おうにも財布がない。蹴とばした缶がどうやら自分の頭に落ちてきたらしい。

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