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「800字文学館」

目を覚ませ

松谷 隆

 今年の大阪国際女子マラソンの放送を楽しく見た。まず、福士選手が2時間22分13秒と派遣基準を13秒上まわるぶっちぎりの優勝。解説の増田明美氏がゴール前900㍍のところで、突然涙声から無言になったハプニングもあった。

 だが、その2日後あっとおどろくニュースがあった。代表選考最終レース、3月13日の名古屋ウィメンズに福士選手が出場するという。監督は「日本陸連からリオの確約がない。何もせず待っていて、外されてはかなわない」と言っている。
 これと同じセリフを聞いたことがある。そうだ、あのママさんランナーの赤羽選手だ。2011年大阪で優勝、テグ世界陸上で1位に48秒遅れの5位に入った。ロンドンの有力候補と見なされていても、「派遣基準を突破していない。このまま落されて後悔するのはいや」と言って、名古屋に強行出場。結果は8位と惨敗。1月下旬の足の捻挫が回復しないままの走りだった。

 なぜ、福士選手が赤羽選手と同じことをしようとしているのか。それは陸連が内規を変えたためだ。従来、オリンピック前年の世界選手権で3位以内なら内定」という規定を「8位以内なら内定」と大甘にした。その恩恵を受けたのは北京でトップから2分12秒遅れの七位、伊藤選手だ。一方、この変更を知った赤羽選手の心中は察するにあまりある。
 陸連の言い分は、五輪本番までに充分な練習時間を与えるという茶番ものである。なぜなら、3月中旬の最終選考で選ばれるあと2人の選手の準備期間とは差がありすぎる。

 陸連はマラソン選手の選考基準を明確にすべきである。昨年の北京への選定で横浜の優勝者を外したことに増田氏や高橋氏が異議申立したが、うやむやのまま。福士選手の名古屋出場にも「選考は予定通り」との一点張り。いいかげんに目を覚まし、新聞社とは蛮勇をもって縁を切り、オリンピックや世界陸上の開催3~4ヵ月前に「マラソン日本選手権」を開き、その上位3名を派遣すれば万人が納得なのに。

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