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「800字文学館」

山よさよなら ― 捨てる

大月 和彦

 去年の秋、秋田駒ヶ岳に登った帰途、突然歩けなくなり同行者の肩につかまりながらほうほうの体で麓に辿りつた。膝がダメになったのである。以来山歩きは諦めている。

 最近、家内が終活を意識したのか身の回りの整理に熱心になり「不要な物」を探しだしては捨て始めた。別居する子どもにも、本やアルバムなど学校時代の思い出の品を捨てるか引き取るかを迫っている。

 納戸の隅にある山の道具が入った段ボール箱も目をつけられた。ゴわごわで、だぶだぶの衣類、シュラフ、ゴム製のエアマット、スエ―デン製のコンロや飯盒など骨董品みたいな用具類が箱に眠っていた。
 ホワイトガソリンが入った缶もあった。自然発火するおそれがあり、気にはなっていたがそのまま放置してあったのだ。
 とりあえずガソリンを処理ずることとしたが、引火の恐れがある危険物なので簡単に処分できない。庭に穴を掘って捨てるのも危険だというので空焚きすることとする。風の少ないある日、コンロを庭に持ち出し、30年ぶりぐらいになるのか点火するがなかなか燃えださない。何回か繰り返しているうちにコンロ本体が暖まり、やっと青緑色の炎になりゴオーゴオーと音をたてて燃えだした。つきっきりで2時間、やっと燃え尽きた。

 シュラフの処分も面倒だった。そのままでは有料の粗大ゴミ扱いになる。細かく切り刻んでいくつかの袋に詰めておくと普通の可燃ごみ扱いで無料と言う。切り刻む時に羽毛が舞い上がるとなお厄介なのでそのまま粗大ごみとして出す。
 鉄製の重いホエーブスも不燃ゴミの扱いで処分しなければならず、月1回の回収日に持って行ってもらった。
 先端がペロッと剥がれた登山靴は未練があって下駄箱に入れたままだったが、これからの山の散歩はウォーキングシューズで用が足りるとやっと納得し、捨てることが出来た。

山歩きの道具一切を処分してすっきりした気分になったと思うこととしているが、山歩きの楽しみはTV番組と本だけになってしまった。

(15・12・10)

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