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「800字文学館」

台湾風景

首藤 静夫

 会社時代の仲間四人と台北を旅行した。いずれも長いつきあいの友人たちだ。
 私が台湾を初めて訪れたのは20数年まえ。ぽんこつの四輪車やイナゴの群れのようなバイクに驚いた。家族4、5人を鈴なりに乗せて走るスクーターも見た。
 最近、日本では台湾のニュースが少ない。先月の台中首脳会談はさすがに騒がれたが、普段は台風以外あまり話題に上らない。日韓、日中を盛んに伝える報道とは対照的である。ならばこの目、この舌でという訳だ。

 台北は落ち着いたたたずまいだった。高層ビルもお洒落なホテルもあるが、全体的には煉瓦造りの古風な建物が多い。南北、東西を走る大通りは台湾楓(ふう)などの巨木が並び街に風格を与えている。成金趣味のような建物が多い国ではこうはいかない。大人(たいじん)の国というべきか。
 街は新車が走り、タクシーも大型で日本車が目立つ。デパートや飲食店のディスプレイ、地下鉄の案内表示や運航システムなども日本と似通っている。韓国などもそうだが、日本流の消費文化がアジア一円に広がっているのを実感する。
 見物は故宮だけにとどめ、もっぱら食に走った。連れは皆、食の知識、経験が豊富で何でも興味深そうに試す。嗜好領域が狭い私の皿はいつも何かが残っている。点心は苦手だ。無理に詰め込んだので膨満感が旅行中残った。
 帰国の前日、今回のリーダー、K君の提案で淡水河に行った。市北部のリゾート地で江の島を思わせる風光の地だ。魚介の焼きものや茹でたものを肴に昼間から地ビールで乾杯。これは旨かった。
 食後、川岸をぶらぶらして茶屋で一休みする。異国の川を眺めながら、それぞれ思いをはせているのか言葉が少ない。普段は表に出さないが、病気とつき合っていたり、伴侶に先立たれて独りの日常だったりの友人たちなのだ。
 K君がぽつりひと言、
 「帰ったらまた一人でメシか・・・・・・」
 何か言ってやりたいが言葉が出ない。無言で小さくうなずく。
 にぎやかな旅行中の静かな時間である。

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