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「800字文学館」

仮想空間医療

野瀬 隆平

 「総合診療医ドクターG」というテレビ番組がある。
 患者の訴える症状を総合的に判断して、いかに的確な診断を行うか、経験豊富な総合医と医者の卵である研修医とのやり取りを通して、正しい病名にたどり着くというもの。
 ポイントは、いかに多くの症状を正確に読み取り、それまでの経験や知見と照合できるかだ。場数を踏んだ医師の方がより的確に診断できるのは当然である。
 それならば、個々の医者が体験したことを自分だけのものとせず、ビッグ・データとして全体で共有すれば良いではないか。
 あらゆる症状を正確かつ詳細に、体温・血圧・脈拍数などの基本的な数値と共にコンピューターにインプットし、このデータで解析すれば、正確な診断が出来るはずだ。
 こんな事を考えていたら、医者の友人がアメリカではそれに近いことが行われていると、「タイム」の記事を紹介してくれた。

 ある女性の話。咳がでるので、かかりつけの医者に行くかわりに、インターネットで「M」というアプリにログインする。画面上の「仮想空間」に現れた看護婦に、自分の症状を詳しく説明する。するとこの看護婦は的確な助言と共に吸入薬の処方箋を作ってくれる。更にその処方箋は、女性の近所の薬局に送られ、薬が受け取れるように手配する。この間要した時間はわずか10分ほどで、料金もたった18ドル。医師に相談していれば何百ドルもかかるだろう。

 アメリカでCybermedicine(仮想空間医療)と呼ばれているこのような医療行為には、色々と議論の余地はある。直ぐに責任を追及して慰謝料をよこせという風土では、なかなか根付きにくいかも知れない。日本では何よりも、厚労省や医師会が絶対に認めないであろう。
 しかし、何時間も待たされたあげく、たった数分ほどの診察で、費用の掛かる効率の悪い医療体制を見直すのに、大いに参考となる。
 過疎地での医療サービスなどで、すでに一部取り入れられているが、その範囲を、地域的にも内容的にも広げてはどうか。

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