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「800字文学館」

二人の経済学者

野瀬 隆平

 今年、記憶に残る経済学者が二人いる。これまで名前すら知らなかった人である。一人は、日本でも話題となったトマ・ピケティ。あの『21世紀の資本論』の著者だ。もう一人は、アンガス・ディートン。といっても、すぐには分からないかも知れない。今年のノーベル経済学賞を受賞したプリンストン大学の教授である。

 ピケティの著書は分厚い本であるが、評判になったこともあり、内容に関心があったので、じっくりと読み込んだ。今日の資本主義社会で格差が問題となっている。それは働いた結果得られる所得の差というよりも、むしろ保有している資産の差から生ずる収入の差が主な要因だ、と結論付けている。
 ディートンがノーベル賞を受賞したのは、個人の消費と貧困・健康の関連を分析した研究が評価されたからである。その成果は『大脱走―健康、お金、格差の起源』と題する彼の代表的な著書に述べられている。
 二人の研究に共通しているのは、共に「格差」を扱っていること。それも、長期的なデータを分析するという手法を使っている点だ。違うのは、ピケティがどちらかというと、社会の上位ある富裕層に焦点を当てているのに対して、ディートンの方は明らかに貧困層に目を向けていることである。

 昨今、国の内外で大きな事件・問題が色々と起きているが、突き詰めてゆくと、どれもがこの「格差」の問題に行き着く。
 例えば、日本の高齢者や若年層の貧困問題もしかり。経済的に余裕のある人たちが大勢いる一方で、その日の食べ物にも事欠く貧困層が存在する。この様な状況で、消費税率を上げるのが本当に妥当なのか。軽減税率の適用範囲について些細な議論する前に、大局的な観点から税制全体を再検討すべきではないか。
 世界各地で頻発しているテロも、格差がその遠因の一つとなっていることは間違いない。この根本問題を解決しない限り、ある地域の特定の集団だけをいくら潰しにかかっても、残念ながらテロを防ぐことはできない。

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