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「800字文学館」

ラグビーとビズーでツールーズの夜は更ける

志村 良知

 ワールドカップでラグビー人気沸騰である。それで思い出すのはフランス駐在中のあるラグビー観戦経験だ。
 時はサッカー・ワールドカップ直後、所は日本初陣だったツールーズ。得意先の社長との雑談もサッカーであった。話がラグビーに移り「日本の親会社は二年連続日本チャンピオンチームのオーナーである」と言うと「おお同志よ」という顔になった。彼は元ラガーマンで地元のプロチーム、ツールージャンの筆頭出資者であった。そして即座に対パリ・スタッド・フランス戦に招待してくれた。前泊と当日泊の2泊で来てくれという。

 前日、空港で迎えてくれたが商売気は無し。ツールーズ市内を観光後、いったんホテルに送られる。改めて夜の部にピックアップされて連れて行かれた店はツールージャンの根城。彼は一番奥のテーブルを占め私を脇に座らせた。若い大男を「これは娘婿でナンバー8で主将、残念なことに負傷で明日の試合には出ない。エリックと呼んでやってくれ」と紹介してくれる。宿敵パリ戦の前夜祭はどんちゃん騒ぎ、私もモールに巻き込まれ、南仏らしく男同志のビズーの嵐で夜は更ける。

 当日、ネクタイ着用で集合したスタジアム脇の巨大な会食場でシャンペンで乾杯。そしてフォアグラと牛ワイン煮のフルコースのランチ、ボルドーの赤がどんどん抜かれる。

 試合は、両チームともFW中心に前進を図る着実な戦法だった。序盤パリが先制すると大きなツールージャン旗でスコアボードを覆い、発煙筒を焚いて気勢をあげる。VIP席もキックオフの瞬間シャンペン片手に全員立ちあがりそのまま立ちっぱなし。
 主将不在の中、アフリカ系混血の巨漢左ウィング、ンタマカ選手が獅子奮迅の働きで、彼がボールに絡む度に沸きに沸くのだった。試合は優勢に転じ、終わってみれば29対10で圧勝。

 そして夜、選手参加の立食パーティーでンタマカ選手に紹介された。巨体とがっちり抱きあってビズー、天にも昇る気分で二夜目も更けていった。

注;ビズー(BISOU,BISOUS)頬へのキスの挨拶

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