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「800字文学館」

南リアス海岸、越喜来(おきらい)で

大月 和彦

 三陸鉄道南リアス線の釜石駅はJR釜石駅の端っこに間借りしている。
 おばさんが一人で切符の販売、改札、回収などを受け持っている。一両だけの列車が到着するとすぐ、盛(大船渡市)に向けて折り返し発車する。
 三陸海岸の南部は、陥没リアス海岸で、小さな半島や湾が入り組み複雑な地形になっている。半島に囲まれた湾は波静かで、海面いっぱいに筏が浮かんでいる。カキとワカメの養殖が盛んなところ。
 南北に走るこの線はトンネルが多く、トンネルを出ると湾に面した平地(集落跡)が開けるというパターン。20分で大船渡市の越喜来湾に面した三陸駅に着く。
 駅は山側の高台にあり、眼前に広がる入江までの集落の跡地には仮設住宅が建っている。跡地の中心にポプラが一本残っていた。
 高台には役場だろうか新しい建物や移転した住宅が見える。
 迎えに来てくれた民宿の女将さんの車で海岸沿いの山道を10分、越喜来湾の一部、小さな入り江から300mぐらい離れた山の中腹にある宿に着く。
 女将さんの話。3・11の当日、津波が防潮堤を超え、引き返す波に集落が根こそぎ流される。山の中腹の墓地を指して波はあそこまで達したという。
 経営していた海釣り宿も流され、船4隻、車4台を失う。幸い家族の犠牲者がなかったが、思い出すと涙も出ないほどだと話す。
 津波から4日目にお客さんが救援に来てくれたことで民宿の再建を決意し、高台に移転し再開した。

 集落跡を海岸まで歩く。浜では大規模な防潮堤工事が始まっている。防潮堤というより巨大な潮止め板だ。強度的には大丈夫なのだろうか。
 夕食は湾で獲れたウニ、ホヤ、ホタテ、イカなど海の幸と地酒を堪能する。
 夕方、漁協のスピーカーが明日のウニ漁を伝えている。漁は朝5時半から7時半まで、漁が出来るのは組合員の家から一人だけ、漁獲量は一定のカゴいっぱいなど。

 三陸の人たちは、多くの恵みを与えてくれるが時には兇暴な怪物と化す海と向かい合って暮らしている。

(15・8・10)

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