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「800字文学館」

パナソニックの挑戦

稲宮 健一

 二〇一一年の前後二年間の株価は日経平均一万円を割り低迷していた。その中でも特に電機業界は悲惨だった。その後、重電系の各社は鉄道、産業機器などの社会インフラに重点を置き回復してきたが、関西系の家電中心の各社は今でも青息吐息である。

 七月四日付の日経に「太陽電池の次の」照準という記事が目に留まった。光触媒を使って、太陽光を受け、水を電気分解してクリーンエネルギー、水素を取得するとのこと。現状では電気分解は原理的に酸化チタンでも可能だが、効率が悪く有効な手段ではない。しかし、パナソニックは独自の「ニオブ系窒化物触媒」を開発、効率を飛躍的に上げられる見込みで、十年単位で花を咲かせるとのこと。

 酸化チタンの強い酸化還元作用は藤嶋昭(現東京理科大学長)が東大の院生の時発見した現象である。現在産業界では、ビルの外壁、新幹線の車体、鏡の表面の汚れが人手を掛けずに除けるなどに使われている。水の電気分解の能力があることも知られていたが、太陽電池のように注目されてなかった。

 太陽電池は太陽光から電気が得られるので、環境に優しいと思われ普及しているが、高純度のシリコンを得るため、製造段階で電力を使っている。必ずしも全部クリーンなエネルギーではない。従って、全寿命を通じ、製品になるまでの投入電力を超えて火力発電より安い売電ができて始めて、クリーンな電力が生み出せる。今は高いが、将来コスト低減が期待されている。

 ニオブの資源量は豊富にあって、水素を作る機構も簡単で製造コストが低く抑えられる見込みだ。パナソニックは今までの家電製造に限界があるため、新しいビジネスモデルを模索しており、藤沢市に燃料電池などを使った新しい住宅街を創り、今までの家電製品と異なる電化の市場開発を狙っている。この光触媒を使ったきれいな電力もその一環で、家庭から社会のインフラ投資の市場を開発している。新しい家電メーカに変貌できれば素晴らしい。

(二〇一五・七・九)

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