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「800字文学館」

佐渡へ

新田 由紀子

 GW後半、社内サークル「山と温泉部」の有志4人は佐渡へ向かう。2泊3日の山旅に、背中のザックはものものしくも心は軽い。うきうきとはしゃぎ過ぎて飲み物をぶちまけるわ、特急券は失くすわ、船の便は逃すわ、のハプニングを切り抜け、あいにくの雨雲にすっぽり包まれて緑に煙る島へと上陸した。帰省中のK女の出迎えで、この日は金山見学と温泉と味覚の定番観光にあてる。ご両親の心配りと島の人々の応対に、心温まる第一夜は雨の中に暮れた。
 翌日はカラリ晴れあがってハイキング日和。宿の庭先に続く加茂湖の水に大佐渡山脈の盟主金北山が映える。登山口には、朝の船で着いたO女も合流してメンバーが揃い踏み。登山靴の紐キリリと締めて、アオネバ渓谷入り口から2日目の宿ドンデン山荘へと登って行く。
 聞きしに勝る花の島。登るにつれて一同歓声が止まらない。ヒトリシズカ、ニリンソウ、キクザキイチゲ、カタクリ、イワカガミ。シラネアオイも一面に咲き乱れている。うつむきがちに薄紫の花びらをふわりと開いている様は、楚々とした美女のよう。ドンデン高原からは視界が開けて海が見えてきた。残雪の脇では雪割草がピンクの花をつけている。雪解け水に沿って水芭蕉や座禅草も顔を出していた。
 山荘での至福のひととき、ビールとワインを片手にテラスに陣取る。眼下には海と湖と青々とした田畑。大佐渡、小佐渡の山々が夕陽に染まる。夕食後は雑魚寝の部屋で差し入れを囲み、グラスを重ねておしゃべりに花が咲く。夜も更けて波の上に満月が上がると、ゴージャスな島の夜景に皆声を失くした。
 翌朝も快晴。山荘を後にして金北山縦走路を進む。標高が高いためかシラネアオイもカタクリも瑞々しくおおぶりだ。残雪に足をとられながらマトネ峰を往復してアオネバ渓谷を下山する。しめくくりの温泉は『朱鷺の舞湯』。湖畔の湯から見上げると、沢襞に雪を残した金北山が「雪が消えたらまたおいで」と、呼びかけているかのようだった。

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