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「800字文学館」

ミュージカル

中村 晃也

 1980年に、NYのSt.James Theatre でミュージカル“42nd Street”を観て、その場面転換の速さ、生のバンド音とタップダンスの迫力に圧倒された。劇のストーリーはわからなくても、唄と踊り、派手な衣装、コミカルな仕草などで十分楽しむことができ、完全に嵌ってしまった。

 以後、1988年までアメリカ出張のたびに、Sophisticated Ladies, Poggy and Bess, On your toes, Me and My Girl, The King and I、A Chorus Line, Starlight Express, Cats, Cabaretなどのブロードウエイものを鑑賞した。
 NY事務所の秘書が、毎回ちゃっかりと自分の分も合わせて二枚のチケットを用意してくれたものだ。

 それ以後は仕事の関係でロンドンの劇場が多くなる。South Pacific, The Phantom of Opera, Anything Goes, Miss Saigon, Evita, Follies, Singin’ in The Rain, Dancin’ などは、週末にPrince of Wales Theatre, Prince Edward Theatre, London Theatre, Theatre Royal Drury Laneなどの小屋を回って席が空いていれば入るといった具合であった。

 東京でもNHKホールやコマ劇場、厚生年金会館ホールなどで42nd Street, Dream Girls, A Chorus Line , My One and Only, My Fair Lady, Sing’ in The Rainを家族と一緒に観た。あの高揚した楽しさを家族にも味あわせたかった。

 いろいろなシーンの中でも、Summer Time, Some Enchanted Evening, Memory, Sing’ in The rainなどの名主題曲を歌う場面は今でも心に残っている。
 特筆すべきは、癌で休場していたユルブリンナーの、カンバックしたばかりの舞台The King And Iを観たことである。かの有名なShall We Danceの場面では、みるからに痛々しい感じの彼の周囲を、相手役の女優が大袈裟に踊り、彼を庇っていた。
 終局の、王様が亡くなるシーンでは、俳優本人の先行きを暗示するかのような幕切れに、観衆は総立ちになり、涙と共に拍手をしたその瞬間が最も印象に残っている。
 ミュージカルは楽しくそして哀しい。

平成27年5月

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