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「800字文学館」

採用は継続すべし

濱田 優(ゆたか)

 街に初々しいフレッシュマンが目につく時季になった。
 今年(2015年度)の新入社員のタイプは、日本生産性本部の発表によると、「消せるボールペン」だそうだ。書いた字が消せる機能(変化に対応できる柔軟性)があるという。ただ酷使するとインク切れ(離職)してしまうとも。因みに昨年は「自動ブレーキ型」、一昨年は「ロボット掃除機型」だった。

 緩やかな景気回復を受け、今年は大卒の就職内定率がリーマン・ショック前の水準まで回復した。喜ばしいことだ。が、学生がたまたま卒業するときの経済情勢によって、就職状況に天と地ほどの差がでることに不条理を感じる。もっと採用人数の平準化が図れないか。
 長期的視野からの安定志向が日本的経営の特徴といわれる。その基盤となる人材の採用方針が時々の景気動向次第、というのは、基本理念にもとるだろう。
 おまけに日本の経営者は横並びで同じ判断をし、好景気のときは揃って採用を大幅に増やし、逆に不況時には各社が採用を激減させて学生に門を閉ざす。

 人の一生を左右するまたとない就職機会が、こんな不安定な状態のままでいいのか。企業は長期的な要員計画に沿って最少限の採用を続ける努力をして欲しい。その費用の負担が困難なら、社長以下高給取りの給与の一部を充てればいい。5%もカットすれば相当数の新人を採れる。彼らが即戦力にならなくても、トップは後継のために自分の役割を果たすべきだ。
 求人難の折にはとても無理な優秀な人材が、他社が採用を控えるときには比較的容易に確保できるのだから、その企業努力はきっと結ばれる。

 私が勤めた会社で長い間大卒男子の採用を中止した時期があった。中止前の最後に入った男は何時まで経っても一番下。飲み会の幹事は手馴れになったが、末っ子気質の甘えが抜けず伸び悩んだ。が、採用を再開して部下を持つと、引き締まり、頼もしくなった。「若い社員に自覚を促す」、これも採用継続の効果だ。

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