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「800字文学館」

聖地ベナレスにて思う ~バラモン教、ヒンズー教~

斉藤 征雄

 インドの人口12億人のうち80%を超える人がヒンズー教徒だという。他はイスラム教13%、キリスト教2%、仏教は1%にも満たない。

 ベナレスはヒンズー教の聖地である。ガンジス川沿いにあるその街は、沐浴のためにインド各地からやってきた人びととそれを観る観光客でごった返していた。彼らはガンジス川で沐浴すればすべての罪が浄められ、遺灰をガンジス川に流されれば死後天界に生まれることができると信じているという。
 ベナレスには毎年100万人を超える巡礼者が集まる。そして川岸には回復の見込みのない病人が寝泊まりする施設があった。そこで死を待って、死んだら隣の火葬場で焼かれ遺骨と遺灰をガンジス川に流してもらうのである。

 ベナレスは、人間の生きることとそして死とが、ガンジス川のゆったりとした流れと溶け合う場所なのだろう。ガンジス川は人間の存在をはるかに超えた、すべてを受容する偉大なる自然、聖なる川なのである。
 ヒンズー教は、古代インドのバラモン教を源流とする。バラモン教は自然現象を神格化して崇拝する多神教であった。ヒンズー教が、ガンジス川を聖なる川として崇めることはそこに端を発していると考えられる。

 バラモン教は祭祀を重視するが、祭祀を司る僧をバラモンという。バラモンは神々と関わり、その霊力は宇宙の諸現象を支配できるとさえ考えられた。その結果バラモン階級は社会の最上位に位置づけられ、いわゆるカースト制度を生み出す元になるのである。インド社会はバラモン教に始まり、それがヒンズー教に受けつがれて今日に至る。
 また、バラモン教の死生観である業と輪廻の思想もさまざまな形でインドのすべての宗教、ひいては人びとの意識に影響を与えたといわれる。ヒンズー教しかり、仏教も例外ではない。
 ヒンズー教の人びとの沐浴の姿を見て、正直に言って彼らの真剣さに驚きを感じるとともに、源流であるバラモン教の死生観に対して、あらためて関心を深めた次第である。

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