作品の閲覧

「800字文学館」

外国人向け旅の手引き本

川村 邦生

 東北一人旅の途中で多くの外国人バックパッカーに出会った。リックを背負って気の向くまま日本国内を廻る日本通になりたい人達だ。彼ら向けに手引き本があるそうなので内容を想像してみた。

 安い民宿に泊まり、食事は寿司等高級食でなく町の食堂で定食を食べる。ライスは説明省略。厄介なのがライスとセットで出る味噌スープだ。とてつもなく塩辛いスープは日本の食事に欠かすことができない。一見すると泥水のようだが時間がたつと泥だけは沈む。沈んだ粘土の様な味噌が塩辛い原因だ。味噌は大豆から作られるとの知識があっても、この粘土を海水で薄めたようなスープを飲むには抵抗がある。このスープに海草が浮かんでいる事で海水と錯覚する。

 朝の定食に黒い名刺大のカーボン紙と似ている物が出る。最初は何故食卓にカーボン紙が出るかと不思議に思うがこれは海苔というものだ。慣れないと黒い紙を口に入れる事をためらうが、ちょっと醤油をつけライスを巻いて食べると珍味であり日本通外国人と言われる。
 味噌スープや海苔より難物は納豆だ。腐らせて白く粉がふいている大豆、クチャクチャとかき混ぜ、糸を引くまで絡まり合せて醤油をたらしライスに乗せて食べる。その時異臭が鼻につき慣れないと口に入れる勇気は出ない。どうしても食べられない時の断り方は、「関西出身外人なので納豆だけはだめです」と言えば納得してもらえる。

 なんでも試すという人向けにとっておきの物、クサヤがある。干した魚だがとてつもない匂いだ。炙ると更に強烈なにおいを発する。しかしこれが旨いらしいが、味について詳しく説明出来ない。クサヤを手にはしたが、どうしても口には入れられなかったからだ。通になるために試すにはかなりの勇気がいる。

 このように書かれているだろうが、日本には地方ごとに地元の人からのおもてなし、お祭りでのふれあい、そして食事、地酒と楽しみが多い。それが解った時、本当の日本通外国人となるのだ。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧