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「800字文学館」

ハイブリッド民主主義

池田 隆

 来月に総選挙が行われる。今まで棄権したことはないが、選挙の度に戸惑い、不満を感じる。幾つかの重要な政策課題に関して、自分と同じ意見の組合せをもつ候補者や政党が見当たらないせいである。政策のセットメニューでなく、アラカルトを注文したい。
 そもそも民主主義は古代ギリシャのアテネで誕生した。その時は市民全員が一堂に会して、立法に直接関与する直接民主主義であった。19世紀に国民国家が生れ、民主主義が再び復活する。しかし有権者数が一都市から民族国家の規模に増え、直接民主主義は物理的に不可能であった。
 そこで採用されたのが、有権者は選挙で議員を選び、議員が立法に携わるという間接民主主義である。私の不満の元を探ると、その選挙制度の不備につき当たる。
 翻って現代を見渡すと、科学技術の進歩で19世紀には全く想像もつかなかった事柄が数多く可能になった。IT技術もその一つである。マイナンバー制度を使って国民全員の賛否や意見を集計することはいとも容易い。なにも19世紀の遺物に拘ることはない。
 とは言え、仕事は奴隷に任せ、自由時間に恵まれていた古代ギリシャの市民と違い、現代の国民は生業に追われている。複雑化した社会で審議すべき議題も桁違いに多い。全ての法案に国民全員が参加するのは無理である。そこで考えてみたのが、直接民主主義と間接民主主義を組み合わせたハイブリッド民主主義である。
 現行と同じように選挙で議員を選び、各法案は2/3以上の議員の賛成で可決、1/3以下で否決する。ただし1/3~2/3の場合は案件毎にIT国民投票にかけ、1/2以上の投票率と賛成率で可決する。
 因みに今の日本で9割以上の法案は与野党賛成の下で可決されている。対立法案がよくニュースになるが、数としての比率は低い。ハイブリッド方式にすると、国民が法案に対し年間数回程度の投票を行うことになる。
 我々はその投票の度に自らの政治意識を高め、政権の暴走を防ぎ、真の民主主義に近づいて行く。

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