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「800字文学館」

頑張るカシオペア

富岡 喜久雄

 夜空に輝く星の名は、南の「南十字星」北の「北斗七星」は誰でも知っている。北行き寝台列車の名称は北斗星、カシオペアでもある。北海道産の銘柄米に「ななつ星」というのもあるくらいだ。しかし九州にも「ななつ星」なる豪華列車が走っているから悩ましい。由来は不確かだが、カシオペアも北斗星も廃止の噂があるから先取りしたのかもしれない。
 東北新幹線で東京から青森まで三時間で行ける現在、寝台列車の必要はなくなるのも分かる。飛行機と新幹線がこれに代わり、ビジネスマンの出張もあわただしい限りだ。

 そんな急ぎ旅の必要ない我が身は、「旅は鈍行、一人旅」をモットーにしてきたので、カシオペアか北斗星に一度は乗ってみたいと思っていた。
 丁度、掌編小説のネタ探しに苫小牧まで行く必要が出てきたので家族に話すと、学生時代に経験のある娘は
「揺れるから寝られないし、体に悪い。歳を考えて止めろ」と言う。
「どうしても行くなら特別席で母さんと一緒に行くべし」と強硬だった。
 こちらはバンコックからヴィエンチャンまで何度も夜行三等寝台で行って自信があると言うと
「昔の話でしょう」とすっかり老人扱いである。

ともかく所用ついでにJTBに寄り、北海道旅行のパンフを持って帰った。セット・プランが各種あり、食堂車もついて特別室の写真も豪華である。
これなら家内も行くと言いそうで、我が願い危うしと覚悟した。
案の定、家内は乗り気になった。止む無く、再び二人でJTBに出かけ、案内嬢にカシオペアのセット旅行・特別室利用と希望を告げた。
「出発日はいつですか」
「来週中、遅くも今月中がいいのだが」
「すべて満席でキャンセル待ちです。B寝台でも二席だけ、しかも離れ離れしかありません」と大人気だった。
「残念だけど、それでは私は行きたくない、独りで行って来れば」
と家内はあっさりと降りてしまった。
「残念だな、せっかくの機会なのに」
私は顔だけ苦虫噛んで安堵である、我がモットー安泰なりと。

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